LegalOn Technologiesは2025年10月22日、法務以外の領域へのサービス提供を本格化するため、新会社「On Technologies」を設立したと発表した。同時に、ドイツのガバナンスAI企業「Fides Technology」を買収し、創業以来初のM&Aを実施した。同社は「Expertise Specific AI(専門特化AI)」というコンセプトのもと、法務で培った専門領域へのAI応用ノウハウを、営業やエグゼクティブ支援などの領域へ展開していく。

同社代表取締役CEOで弁護士の角田望氏は会見で、ARR(年間経常収益)が100億円を突破したことを明らかにした。「日本発のAI企業として最速での達成」(角田氏)だという。現在、グローバルで7,500社以上が同社のサービスを導入しており、日本国内の上場企業の30%、Fortune 500掲載のグローバル日系企業の87%が利用している。
角田氏は事業拡大の背景として、日本経済研究センターの長期経済予測を引用した。同予測では、AIを活用して生産性向上や人材の適正配置といった社会変革を進めれば、2075年時点で日本の実質GDPは世界4位になるが、進められない場合は11位まで後退するとしている。
総務省の調査によれば、企業における業務での生成AI利用率は、中国が96%、米国が91%、ドイツが90%であるのに対し、日本は55%にとどまる。角田氏は「日本の業務オペレーションに適したAIソリューションが乏しく、部署ごとにAIの取り組みが分断されている。AIの活用が個人に委ねられているという課題がある」と指摘した。
同社は、法務領域で培った「専門性×AI」の開発ノウハウを、企業のオペレーションに不可欠な各専門領域へ展開していく戦略を打ち出した。角田氏は「生成AIの登場によって、汎用的なAIソリューションが普及している。我々は深い専門性に根ざしたAIソリューションを提供することで差別化を図る」と述べた。
営業遂行AIとエグゼクティブ向けAIを2025年度中に提供
新会社On Technologiesが提供する新プロダクトの1つが、営業遂行AI「DealOn」である。受注までの営業プロセスを一貫してAIが遂行し、AIの稼働状況を管理するダッシュボードや、人間の営業担当への適切なアラート機能を搭載する。
同社は2025年7月から社内の営業業務でAIによるメール自動応答を活用しており、67%のメールで9割以上が修正不要、33%のメールで7割以上が修正不要という精度を達成している。角田氏は「顧客からの製品要件の相談について、自動返信で完結することが多い。土日や終業後など、営業担当がメールを確認できない時間帯にも対応できる」と語った。
もう1つの新プロダクトが、エグゼクティブ向けAIアシスタント「CXOn」だ。経営層やマネージャー層の時間を拡張し、思考・意思決定・行動を最大化させることを目指す。同社の調査では、エグゼクティブが理想的には19%の時間を費やしたいと考えている「顧客・対外活動」に、実際には16%の時間しか充てられていない。一方で、雑務・事務処理には実際には14%の時間がかかっているが、理想は6%にとどまる。
角田氏は「管理職やエグゼクティブは、ジェネラリストとして多くの仕事を広く、時には深くやらねばならない。時間がいくらあっても足りないという課題をAIアシスタントで解決したい」と説明した。CXOnは2025年内にベータ版の提供を開始する予定で、フリープランから提供される。
独Fides Technologyを買収、ガバナンス領域を強化

同社は創業以来初のM&Aとして、ドイツのFides Technologyの全株式を取得した。Fidesは2021年にミュンヘンで創業され、コーポレート・ガバナンス分野のAIプラットフォームを提供している。100ヵ国以上にユーザーを有し、グローバルの大企業を中心に、グループ会社の管理や議事録の作成・保管、各種会議体の運営などを支援するソリューションを展開している。
角田氏は「日本でもコーポレートガバナンスコードによってガバナンスの重要性は認識されているが、グローバルな企業グループ全体のガバナンスという観点ではまだこれからという状況。グループ会社の会計不祥事が企業危機につながるケースもあるが、日本企業が世界各国の子会社やグループ会社を管理する適切なソリューションが日本には存在しないという課題がある」と語った。
同社は、これまでLegalOnがカバーしていた契約レビューや法務相談などのビジネス法務領域に加え、Fidesによってガバナンス領域をワンストップでカバーする体制を構築する。角田氏は「法務領域で重要なビジネス法務とガバナンスの2領域を、ワンストップで提供していく」と強調した。
2030年度末までに法務以外の売上シェア50%を目指す

同社は2030年度末までに、法務領域以外からの売上シェアを50%まで高めることを目標としている。新会社On Technologiesは、営業向けの「DealOn」、エグゼクティブ向けの「CXOn」、コーポレート向けの「CorporateOn」を展開し、さらに他の専門領域への展開も検討している。
角田氏は「生成AIの登場によってソフトウェア産業は激変する。AIを活用したソフトウェア開発が普通になり、これまでと違って早く多くのソリューションを出せるようになる。無限になったリソースをいかにレバレッジをかけて事業展開できるかで企業の命運が分かれる」との見通しを示した。
同社はまた、プロダクトブランドとコーポレートブランドを刷新し、グローバル共通の新ロゴを発表した。角田氏は「専門性にAIテクノロジーをOnするという思いを込めた。専門性のスイッチをOnするという意味も込めている」と説明した。同社は今後、「Expertise Specific AI」という一貫したコンセプトのもと、法務を起点に企業の全専門領域へAIソリューションを展開していく方針だ。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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