では、どうすべきなのか
高木 ちょっと疑問なのはですね、今日は飛ばしましたけれども、冒頭の説明部分では、集団で来ると。集団窃盗で来ると。窃盗団が来るんだと。見張り役とかがいたりして、カメラに映らないようにして持っていくとかいう説明があったんですけど、むしろ被害額の大半がそれなんじゃないのと。もしそうだとすると別の方法でやる必要があるんじゃないのかって気がするんですよね。もちろんカメラの位置をどこにするのかっていうのもあるんですけど。最近は画像処理の機械学習がかなり進んできているので、顔の識別を1個1個するんじゃなくて、映っている人の群れがですね、異常なことをしていないかという、異常を検知するっていうのがだいぶできるようになってきているので、本来そっちでやるべきことなんじゃないかと。
鈴木 そっちのほうがビッグデータに近いですね。
高木 ビックデータじゃないですよ、データとして保存はしないんです。事前に機械学習したパターンを用意しておいて、その場の異常検知をするだけです。こっちだったら、個人データじゃないので、この類の問題はないわけですよ。しかも効果があるんじゃないかっていう気がするんですけど、なんでそこを取り上げないんだろう?と。
山本 わざと、回りくどいものを説明しないっていうことを心掛けているのではないでしょうか。
鈴木 通常、目的に照らして、より権利侵害的でない、他の代替的技術がないか探してそれを選択するっていうのが健全な発想ですけど、たぶん、顔識別システムありきなんでしょうかね。顔識別技術というシーズから、ユースケースをいろいろ考えて、販売先を探してたら万引対策もいいんじゃないかと両者が出会ってしまったということはないですか。それで準備して一定のコストをかけてしまったのでこのまま突っ走りたいと。むしろロビイングして認めさせてしまえというようにしか見えない。しかも、弁護士が関与しながら、利用者の権利侵害に対する問題についての感受性というか想像力が足りないというか、論点落ちが多すぎる。リーガルに対応できていない。主要論点が山積する個人情報保護法の理解も素人同然だ。消去の期間についても、解釈の問題ですねって逃げている。当たり前の論点について検討していない。そこは弁護士としてより適法に運用できるようアドバイスしていくのが仕事じゃないですか。マンボウ機構の場合には、1年にするとか、まずは決めたらいいじゃないですか。こういったあたりの手続きの整備もやらずに、いやー、みたいな感じで適当に流して話している。準備不足のままリリースしている、それを推している、これは法律家の態度としても公益活動としてもまったくよろしくないですよね。
山本 このあたりの議論は想定されるべきものなのですが、そういうツッコミに対して大してちゃんとした答えを持っていないんだろうなとは思うんですよね。この話もそうなんですけど、テロ対策で公共交通機関に対して顔認証が入るというシステムと同じレベルで一般の商業施設やスーパー、日用品を扱うようなところの万引防止のところまで拡大していこうっていうのも、なんかちょっと考えものだなと思うんですけど、いかがですか?
板倉 そもそも、その、ブラックリストっていうか、普通の店舗が持っている迷惑リストって万引だけじゃないわけです。ナンパするとか、店内で周囲がぎょっとするような服装をしているとか、予約をキャンセルするとか、もっと言うと、臭いとかいうのも迷惑だとか言って追いやりたいのですね。でも、臭いというのは来ればわかるわけじゃないですか。別に顔識別はいらないですよね。ぎょっとするような服装をしているというのだって、見ればわかるわけで、そういうものまで顔識別までやろうっていうのは、やっぱりそれは、達成したい目的との関係で、どこまで人権を制約していいのかと、権利を制約していいのかっていう発想が抜けている。まあ、この話は大阪の小林先生と話したことがあるんですけど、迷惑行為もまあ一部は入れたいんでしょう。そこを丁寧にやるのがまさにミッションであって、そこはおいといて、とにかく使えるだけ使いたいっていうのは、気持ちとしてはわかりますけど、それは受け入れられないですね。
山本 今、むしろ後者の方に進んでいっている気がするんですけど、どうですかね。
鈴木 これ、ゆるやかな私刑ですよね。警察がやるわけじゃなくて、私人が自ら技術的な手段を導入してサービスから排除する、失礼な態度で処遇するんでしょう。……
山本 お前匂いがひどいからこのレストラン入るな的な…… ブサメン涙目とかですね。
鈴木 ええ。あと、「共同利用」の話も出てきましたよね。結局1店舗のみでやるのではなく、そういったブラックリストを多店舗に展開する、次は自らの企業グループの店舗以外にも「共同利用」しようという話しもでてくるでしょう。そういう社会のほうがより安全になるんだっていうがロジックがまかり通るようになるかもしれない。
高木 ちょっと動画は省略しますけど、この番組中のこのあとはですね、別のゲストの方から、こういう発言があるんですよ。「普通に生活する分には怖いことってあるんですか?僕らは関係ないんじゃないですか?」と。「むしろ犯罪者はどんどん取り締まればいいんじゃないですか?」と。まあ、そこまでこの方はおっしゃってないですけども、この番組が流れた後のTwitterの反応などを調べてみると、ほとんどの人は「なんで犯罪者を捕まえるのに問題があるんだ?」ってみんな言っているんですよね。
山本 だいたいそういうパターンになりますよね。もちろん、情緒的には犯罪者を捕まえるんだから、多少の議論や整合性は省略してでもさっさと摘発しろという話には確かになりやすい気がします。
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山本 一郎(ヤマモト イチロウ)
1973年東京生まれ、1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産管理、コンテンツの企画・製作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場に精通。著書に『ネットビジネ...
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鈴木 正朝(スズキ マサトモ)
新潟大学 大学院現代社会文化研究科/法学部 教授(情報法)。理化学研究所 革新知能統合研究センター 情報法制チームリーダー、一般財団法人情報法制研究所 理事長を兼務。 1962年生。中央大学大学院法学研究科修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学修了、博士(情報学)。 情報法制学会 運営委員・編集委員、法とコンピュータ学会 理事、内閣官房「パーソナルデータに関する検討会」構成員、同「政府情報システム刷新会議」臨時構...
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高木 浩光(タカギ ヒロミツ)
国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報技術研究部門 主任研究員。1967年生まれ。 1994年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所を経て、2001年より産業技術総合研究所。2013年7月より内閣官房情報セキュリティセンター(...
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板倉 陽一郎(イタクラ ヨウイチロウ)
ひかり総合法律事務所
弁護士 1978年千葉市生まれ。2002年、慶應義塾大学総合政策学部卒、2004年、京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻修士課程修了、2007年、慶應義塾大学法務研究科(法科大学院)修了。第二東京弁護士会所属(ひかり総合法律事務所)。2010年4月より2012年12月まで消費...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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