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プライバシーフリークカフェ

ニッポンの個人データ利活用の課題〜顔識別システムで嫌な奴らを追い払う?


 去る2017年9月12日に行われたプライバシーフリーク・カフェのもようをお届けします。この原稿は当日の鼎談を元に加筆・修正を加えたものです。メインの話題となったのは「マンボウ機構」こと全国万引犯罪防止機構による顔認証を使った万引犯情報の共有の是非について。ちょうど、ここ最近話題となっている「ドタキャン防止システム」を考える上でもたいへん助けとなる議論です。

山本 今年もプライバシーフリーク・カフェがこちらの「Security Online Day」にやってまいりました。今回は板倉陽一郎先生もご参戦ということで、どうぞよろしくおねがいいたします。

板倉 よろしくおねがいします。4名とカウントされていますね。心の中では3+1のつもりなんですが、すでにカウントされているという…

山本 違和感なく、がっつり真ん中に座っていらっしゃる。どうもありがとうございます。ということで今回のお話、昨年このイベントをやったときに出た話の続きをしていきたいと思っておりますが、いかがですかね?

顔識別カメラの件のおさらいと、その後の進展

高木浩光氏
高木浩光氏

高木 はい。去年は顔識別カメラの件を取り上げました(編集部注:『ニッポンの個人情報のいま』)。リカオンですね。あれからもう1年も経ったわけですけど。

山本 時が流れるのは早いですよね。

高木 万引犯を検出するための顔識別の件、この1年でちゃんと進展したのかどうか。なにも変わっていないような気がするんですが。

山本 リカオン自体はね、いろいろ裁判(*東京地裁平成27年9月17日westlaw: 2015WLJPCA09178014(平成26年(ワ)第10758号)やったり、大変そうだったですけども、それとは別にいろんな小売店の会社さんが、来られたお客様の顔を勝手に撮るっていうのが横行しているという話が出るようになりました。その中でも、『全国万引犯罪防止機構』、通称「マンボウ」と呼ばれる団体ですね、このあたりの話の中心にいるのではないか、という話はよく出ているという感じですね。

山本一郎氏
山本一郎氏

鈴木 …そうですね。なんか、菊間先生がいろいろ、ご発言をほうぼうでされているようですが……。

高木 新しい話としては、ちょうど先日こういう記事が出ました。

(「菊間弁護士に聞く!“万引き問題”実態は?」 AbemaPrime 2017年9月4日放送より引用)

AbemaTVのAbemaPrimeという番組が、YouTubeで配信されておりまして。これをネタにして、いろいろ突っ込んでいこうかなと。(編集部注:2018年2月現在、YouTubeは配信終了となっています)

山本 この話は非常にど真ん中と言いますか、状況を理解していただくという意味でもわかりやすいですよね。ぜひお願いします。

高木 はいそれでは。そもそもマンボウ機構って、これまで外と対話しない団体で……

鈴木 会場のみなさん、マンボウ機構ってわかんないんじゃないですか?

高木 全国万引犯罪防止機構……

鈴木 そこの理事長に、元警察庁生活安全局長の竹花さんが就かれておりますが、まぁ立派な団体ですよね。先般、NHKの「クローズアップ現代」という番組でこの顔識別システムの問題やりましたけど。なぜか私は収録で登場で、他の先生はスタジオで生放送でした。

それはともかく菊間先生も、いろんなメディアに出てご活躍だなと思って見ておりました。

鈴木正朝氏
鈴木正朝氏

高木 で、菊間さんは皆さんもご存じじゃないでしょうか。元フジテレビアナウンサーの…

動画再生

キャスター「さて、ここからは万引事件に取り組んでいる全国万引犯罪防止機構の理事を務めていらっしゃる今日のゲスト、菊間さんに解説をしていただきます……」

(「菊間弁護士に聞く!“万引き問題”実態は?」 AbemaPrime 2017年9月4日放送より引用)

山本 この理事の方ですね。

高木 ……とまあ、こんなふうに番組に出ていらっしゃいますけど、元フジテレビアナウンサーで、のちに弁護士になられて、今ご活躍で、このマンボウ機構の理事をされている。

鈴木 大宮のロースクールに入ったってニュースになってましたよね。

山本 ああ、そうでしたね。いろいろとご苦労があったのではないかと思いますが。

鈴木 がんばられて、司法試験に合格されて、弁護士になったなあと思っていたら、マンボウ機構の理事にご就任ということで、ご活躍ですよね。

高木 はい。この番組は、顔識別カメラというのが、万引防止のためにどういうふうに効果があるかっていうのがこういうふうに語られています。

動画再生

ナレーター「個人差もあるとのことですが、帽子をかぶっていたり、サングラスをかけていても反応するんだそうです。この、顔認証システムを導入したことで、防犯効果が格段に上がったといいます。」

(株)市川ビル顧客感動推進部部長「我々の被害としては、ロス高が、まあ顔認証だけではないんですけど、顔認証を入れてから約半額くらいの被害に抑えることができていると思いますね。」

高木 ……とまあ、こんな導入から始まる番組なんですけど、なかなか微妙にこの、システムの宣伝みたいな構成になっていまして、「認証の精度は個人差もあるけれども帽子サングラスでも反応する」とあるんですけど、これ、マスクしたら終わりなんじゃないの?という気がするんですけどね。

山本 基本的には、かなり込み入った状況でも顔認証で個体認識ができるっていうふうにカタログスペック上では出ているんですけど、まあ実際には難しいのではないかと思います。

高木 日本だと、花粉症のこともあって、マスクしててもまったく不審ではない。顔を大きく覆っちゃったら、どう考えても識別できるとは思えないですよね。あえてやろうとしている犯人にとっては、回避手段がいくらでもありそうだと。

鈴木 普通のお客さんのほうがむしろ撮られ放題、ということになりますよね。

高木 普通のお客さんはですね、あとで出てきますが、映ってはいるんですけど、登録はされていないようです。

 それから、どれだけの効果があるかっていうことについて、部長さんが、ロス高が半分になったっておっしゃっていましたけど、なかなか正直な方で、顔認証だけではないがいろいろな対策をいっぺんに入れて半分になったっていう話なので、このシステムがどう効いたかっていうのは不明なままですよね。たとえば、アラートが実際にどれくらい上がって、事前の警告がどれだけできたとか、そういう数字は、数えられることなのに、示されていないです。

 で、番組はこの続きで何を伝えているかっていうと、個人情報の観点からも議論するという番組になっているのですが、まず、過去のニュースが紹介されて、あの有名な「まんだらけ」事件……

山本 ありましたね。

高木 何でしたっけ、高価なフィギュアを盗まれたんでしたっけ?

山本 鉄人28号のブリキ製オブジェでしたね。

高木 それを盗まれたので、「返さないと顔写真を公表する」とウェブサイトで警告したところ、議論を呼んで、警視庁が公表をやめるよう要請して、公表は断念したという事案があったのと、それから「めがねおー」でも、万引き犯の写真にモザイクをかけて公開したという事案がありましたと。これについてこの番組は、「プライバシー侵害じゃないかとの抗議があったとか言うが、万引のほうが重大でしょ?」みたいな調子で取り上げています。

 この番組はこれを掴みにしているわけなんですけども、私がここで疑問に思うのはですね、番組は、個人情報保護法の問題もあってこうだとか言っているんですけど、これ、個人情報保護法は関係ないんですよ。このように個別に犯人を捕らえて、写真を晒したりするのはですね、データベース化していませんから、個人情報保護法の本来の義務対象ではありません。個別に「あいつが犯人だ!」とか言うのは自由です。その、個別の誰某をどうこう言うことは個人情報保護法で規制されることではないのに、個人情報、個人情報と、法律を曲解したまま番組を構成したところがある。

山本 個人情報の取り扱いがセンシティブすぎて、ちょっと独り歩きをしている感じがありますよね。

板倉 ものすごく厳密に言えば、顔写真を撮って、データベースを作成してということまですれば若干問題になることはあるでしょうけど、そういう話じゃないでしょう。要するに典型的な従来型の監視カメラ、それこそビデオテープでね、昔であれば2時間のテープで繰り返し上書きで撮って、そこから単に写真として印刷して店内に貼っているっていうだけだと、それはまあ、個人情報保護法の話ではないですよね。名誉棄損だとかプライバシー侵害だとかそういう観点からは問題点はありますよ。ありますけど、個人情報保護法の問題ではない。

板倉陽一郎氏
板倉陽一郎氏

山本 鈴木先生いかがですか?

鈴木 「個人情報」に該当するかって言うと顔写真は該当するって言うだけの話で、法目的から言えば、個人情報保護法を適用して是正する案件とはちょっとズレていますよね。まずは、不法行為法の民事の話になるんじゃないですかね。あと、差別的取扱いなど内容によっては人権侵害だということで、法務省人権擁護局の案件になることもあるのかなと思うんです。

高木 あとは情報公開法との混同。行政機関が情報公開を請求された時には、保有個人情報であるからには顔の部分を消さないといけないんですよ。

山本 そうですね。

高木 民間の個人情報保護法にそんなルールはないんですね。そこも混乱原因だと思っています。

山本 そのあたりも踏まえて見ていくとですね、マンボウ機構の理事である菊間さんがどういうお話を番組でされていたのかが、非常に気になるところなんですけども。

高木 はい。じゃあ、ちょっとこの動画を見てみようと思うんですけど、まあ、我々の批評のために必要な範囲で公正な慣行で引用させていただこうと思います。

動画再生

キャスター「さきほどVTRの後半にありました顔認証を含めた防犯システム、そしてそこに潜む人権との問題ということに話をしていきたいんですが、いかがでしょうか」

菊間「はい、はい。あの、個人情報保護法っていう法律をみなさんご存じかと思うんですけれども、あれは、もともと個人情報っていうものは、利用していきましょうと。で、利用するものだからこそ、利用のルールを決めましょうということで作った法律なんですけど、その、規制のほうが、こう、メインになっちゃって、みんな、個人情報だからこわい、こわいって言って、利用しなくなっちゃったんですね。でも世界的には、やっぱり個人情報をビッグデータとして使って、マーケティングに使ったり、そのビジネスを新しく展開するなんて使っていく中で、日本だけが遅れていくのはどうなんだっていうことで、今回、個人情報保護法っていうのが改正されて、今年の5月に全面施行されているんですけど、それは、個人情報を適切に、ルール作りをきちんとして、もっと活用していこうっていう法律に変わっていった。で、その活用していこうっていう中で、そのたとえば防犯カメラの画像なんかももっと共同利用しようとか、自分たちのところだけで見るのではなく、同じような被害に遭っているひとたちで共有できないかっていうような試みをしようっていうことが今はじまろうとしているという段階です。」

キャスター「菊間さん、あの、万引防止っていう観点で言いますと、さっきVTRにあったように、要は顔認証で、万引犯がまた店に入ってきたら、アラームが鳴るというこのシステム。で、これがよりやりやすくなったという改正、ということでよろしいんですか?」

菊間「そうですね。ただ、あの、現段階でも、やっているところはあるので……」

キャスター「はぁ……」

菊間「ただこれからは、それをやるときにきちんと、うちのお店は、防犯目的で顔認証のカメラを作動させていますっていう、先ほどのビルは書いてありましたよね。ああいうのを必ず書かなきゃいけないっていうふうになって、その上でやるのと、あと、今回は共同利用ができるっていうことが法律上明記されて、それは、私のお店がやっています、そしたら、その情報をグループ会社とか、あと同じような地域の他のお店と、そのデータを共有することができる。

キャスター「ほぅ~…」

菊間「そうすると、Aというお店で1回万引して捕まった人がBというお店に入ってきたときにBのお店でアラームが鳴る」

キャスター「はぁ~、ほぅ~」

高木 ……といった具合に説明されているんですが。

鈴木 これ、「共同利用」条項が今回の法改正で入ったようなニュアンスで言っていますよね。

山本 まあ、その辺はかなりこう、踏み込んできたなという見解なんですけどいかがですか?

板倉 ふふふ(笑)

山本 言いやがったな、みたいな(笑)

板倉 20カ所くらい間違っているんで(笑)

会場 (笑)

山本 どうしようもない… という感じですね。

板倉 (菊間弁護士とは)弁護士会が同じ第二東京弁護士会でして、修習期で言うと後輩なので、あまりぼろくそ言うのも憚られますが、そもそも、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護するところを目的とするっていうところは改正によっても変わっていないんです。それから、ビッグデータと顔識別の利用ってなにも関係ないですよね。ビッグデータで分析して、こういう傾向の人が万引するかもしれないっていう話だったら別ですけど、そういう話じゃないですよね。そこも間違えていますよね。

山本 せいぜい言えば、この顔つきの奴は犯罪者に違いない、とかそういうのをやれば……

板倉 そういうのを、深層学習でやるとかいうのであれば、やっていいかどうかは別として、それはビッグデータの話ですけど、それは関係ないですよね。関係ないし、利用目的規制も変わっていないです。基本的に。「共同利用」なんて1ミリもいじってないですからね。だから、法律わかんないで…んー、まあいいや、これ以上言うとあれなんですけど。あんまり勉強していないですよね。

鈴木 これはマンボウ機構がやりたいことを単に言っているだけですよね。

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マンボウ機構の見解

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この記事の著者

山本 一郎(ヤマモト イチロウ)

1973年東京生まれ、1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産管理、コンテンツの企画・製作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場に精通。著書に『ネットビジネ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

鈴木 正朝(スズキ マサトモ)

新潟大学 大学院現代社会文化研究科/法学部 教授(情報法)。理化学研究所 革新知能統合研究センター 情報法制チームリーダー、一般財団法人情報法制研究所 理事長を兼務。 1962年生。中央大学大学院法学研究科修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学修了、博士(情報学)。 情報法制学会 運営委員・編集委員、法とコンピュータ学会 理事、内閣官房「パーソナルデータに関する検討会」構成員、同「政府情報システム刷新会議」臨時構...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高木 浩光(タカギ ヒロミツ)

国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報技術研究部門 主任研究員。1967年生まれ。 1994年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所を経て、2001年より産業技術総合研究所。2013年7月より内閣官房情報セキュリティセンター(...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

板倉 陽一郎(イタクラ ヨウイチロウ)

ひかり総合法律事務所
弁護士 1978年千葉市生まれ。2002年、慶應義塾大学総合政策学部卒、2004年、京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻修士課程修了、2007年、慶應義塾大学法務研究科(法科大学院)修了。第二東京弁護士会所属(ひかり総合法律事務所)。2010年4月より2012年12月まで消費...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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