先に私の経歴を紹介させていただきます。今から30年ほど前に新卒で某大手ゼネコンに入社し、技術研究所の電算処理部門(今でいうIT部門)に配属され主に汎用機をメインに研究支援、システム開発、運用管理をしていました。そのころの汎用機のバックアップは基本的には全て大型テープ装置にてオープンリールのテープに記録をしておりました。1966年から放映された、いわゆる初代ウルトラマンの科学特捜隊とかの部屋でくるくる回ってるアレです。ちなみに記録密度は1600/6250bpi。bpiとは、bit per inchの略で、テープ1インチあたりに記録できるビット数をあらわします。さすがにハードディスクもありましたが大きさが洗濯機くらいあるのに容量が640MBと少なく非常に高価だったため、バックアップする先としてはテープがコストパフォーマンス的には最適な時代でした。
そこでやらかしてしまった事例をまずご紹介します。当時は主に女性がオペレータだったのですが、新卒の女子がテープを装置に取り付ける際に誤ってテープの先をリールの隙間に絡めてしまい、テープその物がクシャクシャになってダメになってしまいました。その頃の技術計算プログラムは主にFortran(技術計算用に使われる汎用プログラミング言語)で記述されており、バックアップするのはプログラムのソースファイルだったのですが、原子力関連や観測地震波などでFEM(有限要素法)を使った構造解析プログラムは、数十万Step以上にも及ぶためテープ数本に跨ってバックアップする必要があり、一部のテープが物理的に読めなくなると、当然ながら全ファイルのリストアも不可能になるという、非常に困った事態になります。
このときは、たまたまバックアップを実行するためのオペレーションだったので大きな問題にはなりませんでしたが、もしオリジナルのソースが失われバックアップからリストアする際の出来事であったなら、数千万円以上のコストをかけて作成したプログラムがたった1回のオペレーションミスで失われることになるので、社内的に大問題になってしまう可能性が高かった事件でした。
その後の対策として、機器のリプレースのタイミングでオープンリールでは無くカートリッジ式テープに代わり、テープ装置が手動ではなくオートローダー式になりました。またこの機会にバックアップ手法を再検討した結果、バックアップは複数のコピーを作成して、一部のテープは災害対策で他エリアにある研究施設に宅急便で送る方式に代わりました。これは今で言うまさに3-2-1ルールそのもので(3つのバックアップを異なるメディア、サイトに保管する手法)、現在では当たり前かと思われますが、当時はバックアップを行っていてもオペレーションミスや災害対策(DR)を考慮することはあまり想定していない時代だったので、自分的には非常に良い経験になった記憶があります。