機械は人間の仕事を奪わない
競争戦略論の大家として知られているマイケル・ポーター氏。同氏が1980年代に発表した経営戦略に関する論文「競争の戦略」や「競争優位の戦略」は、経営戦略の基礎と位置づけられており、30年以上経った今でも多くの経営者に影響を与えている。また、近年では「IoT時代の競争戦略」といった論文も数多く発表している。
2018年4月5日に開催された「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・フォーラム」(主催:ダイヤモンド社)の基調講演に登壇した同氏は、「フィジカルとデジタルの融合」をテーマに講演。米PTCの社長兼CEOであるジェームズ・ヘプルマン氏とともに、ARがビジネスや社会に与えるインパクトとその将来像を語った。
冒頭、ポーター氏はデジタル変革の波を、3段階に分けて説明した。
第1の波は、1960年代後半の「バリューチェーンオートメーション」だ。それまで手作業で処理していた業務のプロセスや情報収集の手段を、ITで自動化することで、人的リソースの最適化を図った。続く第2の波は、1980年後半から90年代のインターネット普及期である。さまざまな情報やデータをインターネットで共有することで、業務の効率化を実現。利益の最大化を目指した時代だ。
そして第3の波が、IoTやスマートコネクテッドプロダクト(以下、SCP)に代表される、相互接続の世界である。ポーター氏は「IoTやSCPは、製品自体がデータを生成する。これにより、使えるデジタルデータ量は急増した。IoTやSCPは、企業組織やバリューチェーン、さらにすべての領域でビジネスの境界を変化させ、新たな事業創造の可能性を生み出した」と指摘する。
異分野連携による相互接続が社会全体で普及すれば、例えば、ビル全体のスマート化による新たなサービスや価値の提供が可能になる。では、その時に人間はどのような利便性を享受し、新たな課題を抱えるのか――。ポーター氏は、「(IoTやSCPの普及で)自動化の時代が到来すれば、人間は仕事が奪われるとの懸念があるが、それは杞憂だ。人間は複数のタスクを同時にこなす能力がある。これは、プログラムされた作業しかできない機械が持たない能力だ」と指摘した。