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次世代プライバシー強化技術「ゼロ知識証明」、なぜ今注目されているのかをデロイトトーマツに訊く

edited by Security Online   2020/05/21 15:00

演算の証明で広がるゼロ知識証明のユースケース

――見分ける方法は教えず、自分が知っていることを証明する方法が「ゼロ知識証明」ということですね。

清藤:先ほどの例は、ソーダのブランドを見分ける方法という「知識の証明」を行う例でした。ゼロ知識証明は「知識の証明」の他にも、「範囲の証明」「演算の証明」にも使うことができます。例えば証明するものが知識ではなく、「範囲の証明」になれば、銀行の預金残高を明かすことなく銀行の預金残高が一定以上であることだけを証明することに使えますし、「演算の証明」にするともっと応用範囲が広がるのです。

岸:暗号資産の取引が匿名性を維持したままできるのは、この仕組みを使っているからです。想定されるユースケースを2つ紹介しましょう。1つは不動産取引での顧客審査で、その人の所得が取引基準を満たしているかを金融機関に確かめるユースケースです。個人としては収入や口座残高の情報を不動産取引事業者へすべて開示することはプライバシーの観点から避けたい。代わりに第三者機関が収入や口座残高の情報を開示することなく、その人が取引可能な収入や口座残高があるという事実(事柄)を、ゼロ知識証明を付与して不動産取引事業者に提供することにより、その結果は信頼できることが検証できます(図3)。

不動産取引における顧客審査での利用例 (出典:デロイト トーマツ)

不動産取引における顧客審査での利用例 (出典:デロイト トーマツ)

――ゼロ知識証明は一種の「お墨付き」に相当するわけですね。

岸:その通りです。それも証明する機関の主観的な信頼に基づくお墨付きではなく、暗号で数学的に処理したお墨付きですから、お墨付きを数学的に検証して正しさを客観的に確かめることができます。

 もう一つが最初に少し触れた暗号資産の取引での利用例です。Bitcoinをはじめとする暗号通貨の取引では、ブロックチェーンの参加者全員が台帳から特定のユーザーの取引履歴を知っていて、取引を一元管理する管理者がいなくても取引の整合性が保たれています。ただし、個別の取引情報を完全に秘匿することはできないという課題がありました。

 これに対して、匿名性を維持したまま取引ができるようにした暗号資産がZcashです。

 Zcashでは、zk-SNARK(演算の証明ができるゼロ知識証明の1つ)を利用することにより、送金者が送金額などを隠した状態で取引をできるようにしています。具体的には、今までブロックチェーンの参加者側で行っていた取引の検証作業の一部を送金者側で行い、ゼロ知識証明を付与してから、ブロックチェーン参加者に渡すようにしています。こうすれば、ブロックチェーンの参加者は証明が正しいかだけを検証すればよくなり、送金者や金額などの情報を明かさずとも取引の正しさを確認することができます。

 この2つは金融サービス業におけるゼロ知識証明の想定されるユースケースですが、今後の連載記事では、これら以外の様々なユースケースについて紹介する予定です。

安心してデータ共有ができるプラットフォーム構築を目指す

――Zcashの取引では、100万円を送金したい人が100万円を送ることを秘匿して取引ができるようになるわけですね。今後デロイト トーマツとしてどんなビジネス展開を計画していますか。

清藤:クラウドでのデータ共有とブロックチェーンでのデータの共有の両方に注力する予定です。組織を横断してデータを共有するとき、個人情報のようなセンシティブなデータが含まれる場合でも安心してデータを共有できるようになればと思います。今はゼロ知識証明や秘密計算の技術を使う場合のユースケースの検討と課題の洗い出しを進めているところです。

 ツール自体は国内外のベンダーやスタートアップが提供するようになり、ゼロ知識証明を使う場合のハードルは以前と比べてかなり低くなりました。将来的には、ゼロ知識証明をはじめとした様々なプライバシー強化技術を活用することで、複数の組織や情報システム環境に分散して保管されているデータをプライバシーに配慮したまま繋ぎ合わせて、ユーザーに新しい価値や体験を提供できるようになると考えています。デロイト トーマツ グループはその中で、新しい連携の形を提案し、実際に繋ぎ合わせて化学反応を引き起こす「カタリスト(触媒)」の役割を担っていきたいと考えています。



著者プロフィール

  • 冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

     IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。ビジネスとテクノロジーのギャップを埋めることに関心があり、現在はマーケティングテクノロジーを含む新興領域にフォーカスしている。

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