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加速するカインズのDX、表参道のデジタル戦略チームが果たす役割【カインズ☓WalkMe:前編】

 「IT小売企業」のビジョンを掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるホームセンター大手のカインズ。並行してエンジニア人材を引きつける施策も積極的に進めている。同社が表参道にデジタル戦略拠点を設置し、開発内製化を進める狙いについて、旧知の仲であり、SaaS等デジタルツールの現場への定着を支援するWalkMeの道下和良氏がデジタル部門トップの池照直樹氏に話を聞いた。

デジタル戦略の柱に据えるトータルサプライチェーン

<p>株式会社カインズ デジタル戦略本部長 兼 ペットメディア推進室 室長 池照直樹氏 聞き手:WalkMe株式会社 代表取締役社長 道下和良氏</p>

(右)株式会社カインズ デジタル戦略本部長 兼 ペットメディア推進室 室長 池照直樹氏 
(左)聞き手:WalkMe株式会社 代表取締役社長 道下和良氏

道下:まず、カインズの会社概要から教えていただけますか。

池照:1989年に設立されたホームセンターの会社です。前身の「いせやホームセンター」時代はスーパーマーケット事業も展開していましたが、カインズになってからはホームセンターのビジネス専門です。2020年2月末の従業員数は12,063名、同年5月末の店舗数は218になります。

 最初の15年ぐらいは小売として店舗を増やすことで成長してきましたが、企画から製造、販売までを一貫して行うSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel、製造小売)にビジネスモデルを転換し、現在に至ります。その過程でサプライチェーンを整備し、今ではプライベートブランド商品が6割を超えました。今は、お客様の利便性を高めるため、顧客起点でトータルサプライチェーンを整備することをデジタル戦略の柱の一つに据えています。2019年はどちらかというとお客様に近いフロントの業務に焦点を当てていましたが、2020年からはサービス提供を支えるバックヤードに注力しています。

道下:池照さんは前々職(エノテカ)時代からCMOと物流のトップを兼ねていましたよね。当時から顧客起点のトータルサプライチェーンの重要性への意識が高かったということでしょうか。

池照:お客様は商品をできるだけ安く買いたいと考えています。SPAのビジネスはコストを抑えて良いものを提供することが重要でした。それがECの時代になり、お店に行けばすぐに手に入る商品でもECで購入すると届くまでに待たなくてはならない。いかに早く商品を提供できるかが重要です。カインズは店舗を起点とするビジネスなので、EC専業の場合のサプライチェーンの場合と違って、やることはたくさんあります。例えば、お客様の手元に商品を届ける場合、商品の梱包が終わっている必要がありますが、その作業をするのは人です。さらに、メーカーから送られてくる商品の箱を開封して、店頭に並べる品出しも人がやっています。効率化と言うと、人員削減を連想するかもしれませんが、働き方に余裕がなければお客様に最良のサービスを提供できません。ですから、店舗スタッフが接客に費やす時間を増やすことも効率化には必要になります。

道下:カインズにおけるデジタルの位置付けを確認したいのですが、ビジネスモデルからみて第一の小売、第二のSPAに続く第三のモデルとしてとらえているのでしょうか。

池照:カインズの場合、経営基盤を固めるものであり、それゆえデジタル戦略は経営戦略と一体化しています。デジタルの強みは可用性(スケーラビリティ)にあると思います。カインズでは1年で1億4000万人のお客様がレジを通過しますから、リアルにお客様一人ひとりに専任の店舗スタッフを割り当てることはできませんが、スケールできるシステムでお客様に対峙することは可能です。

表参道にデジタルチームを集約

道下:デジタルへの投資ではどんな判断基準を設けていますか。

池照:継続的な経済合理性のないものに投資はしません。経営戦略での投資判断基準と同じで、スケールしないものは経済合理性がない。どんなB/SやP/Lにしたいかを考え、構成要素を分解し、問題があるところがわかったら投資をする。新しいサービスの追加や既存のサービスの改良で今のビジネスをより良いものにするためにデジタルを使います。

道下:デジタル戦略の方向性について伺いましたが、1月には表参道にデジタル戦略拠点「CAINZ INNOVATION HUB」を設けています。その背景にはどんな思想がありますか。

池照:この拠点を設置したのは、カインズの既存人事制度にエンジニアのワークスタイルがフィットしないと気付いたからです。店舗スタッフの場合、出社時間、休憩時間、終業時間が細かく決まっていますし、本社は都心まで新幹線で1時間かかる埼玉県本庄市にあります。そこに東京に住んでいるエンジニアが毎日9時に出社して働くイメージは持ちにくい。働きやすさや会社が目指すビジョンに共感してもらえないと、どんなにカインズが良い会社でも優秀なエンジニアには来てもらえません。人材マーケットとのズレを吸収するため、別会社を作りました。今、僕の下で働いているエンジニアはカインズに出向している扱いです。

道下:優秀な人材はどんな言葉で口説きますか。

池照:一つは「エンジニアのパラダイスを作る」です。僕がシアトルのMicrosoftの開発チームにいた頃は、40代、50代でもエンジニア人生を全うしている人たちが大勢いました。ですが、そんなキャリアパスは日本では難しい。入社して3年も経てば、プロジェクトマネジメントが仕事の中心になります。プロジェクトマネージャーにならなくても、専門性を活かして高い報酬を得てほしい。給与体系についてはまだ改良を重ねていますが、ワークライフバランスを保ちながら、結果を出してもらえる制度に整えるつもりです。

 他には「世界に名だたる小売業になる」とも伝えています。カインズは時代に即したサービスをお客様に提供し続ける会社でありたい。自社製品は進化し続けていますが、サービスもお客様にとって最良のものになるよう改良を続ける。そのためには、店舗スタッフの作業を減らし、サービスをより良いものにする仕組みを整備しなくてはなりません。

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開発内製化へのこだわり

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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