半導体危機の原因はサプライチェーンの構造変化
「最近、あるコンサルタントの方から聞いた話に『当初の構想ではピラミッド型のサプライチェーンだったものが、実はダイヤモンド型に変わっていた』があります」――こう話すのは、SAPでISM(Intelligent Spend Management)関連製品の責任者を務める佐藤恭平氏である。「日本の製造業が直面している調達課題は産業構造的なもの」とするこの見解は、企業のトップマネジメントと頻繁に対話する専門家たちにとって、共通認識のようだ。
多重構造のピラミッドモデルでは、仮に一番下の階層で何か事故が起きても、上の階層が別の会社に調達を切り替えれば回復は容易に行える。ところが実際にはそうならない。2000年頃から始まった産業のモジュール化の進展で、バリューチェーンの川上(ピラミッドモデルでは下層に位置する)にいる企業が機能特化と集約に成功し、川下の会社に対する交渉力を増大させた。その結果、川上に何か問題が起きると川下に連鎖してしまうことになった。2021年4月から5月にかけて半導体の調達が困難に直面したのは、従来とは産業構造が変化したことに原因があるとわかる(図1)。
さらに半導体に関しては、電子機器産業だけでなく自動車産業も参加する「異業種間バトル」が世界規模で起きていた。しかも、このサプライチェーンの危機は一部の業界だけに限らない。今やあらゆる業界が解決しなければならない課題となった。世界がコロナ禍に見舞われる前から、災害が起きてどこかの工場が停止する経験をしてきたであろう。しかし、当時のリスクは国単位に留まっていたし、世界全体で供給が停止するほどのものではなかった。変異株ウイルスの流行で、その状況が長期化するのは確実だ。だとすると、サプライチェーンの設計をダイヤモンド型の産業構造を前提にするものに改めなくてはならない。従来は顧客に近い川下の会社が交渉力を持っていたが、その関係が逆転した今、「サプライヤーを買い叩くのではなく、パートナーとして遇する新しい関係構築が求められている」と佐藤氏は訴える。