異常気象はグローバルなサプライチェーンに影響を与えています。世界貿易機関(WTO)の見通しによれば、2020年の世界の貿易量は前年比-5.3%の減少となりました(*)。もちろんパンデミックの影響が大きいわけですが、異常気象も製造業に打撃を与えています。
*出典:通商産業省「通商白書」、2021年
台湾の干ばつで異常気象がサプライチェーンを直撃、リスクが顕在化
異常気象が与える製造業への影響の典型例が、台湾の干ばつが及ぼした半導体不足です。台湾は今年、過去50年で最も深刻な干ばつに見舞われています。市民生活は多大な不利益をこうむっており、ある地方自治体では首長が宗教的な「雨乞い」をしたほどです。
世界の生産能力の3分の2を台湾が占める半導体産業は大きな打撃を受けています。半導体生産には大量の冷却水や洗浄水を必要とするからです。また、水力発電の減少に加え火力発電所の事故も重なり、半導体工場への電力供給も一時は制限がかかりました。
干ばつという異常気象を台湾当局が予測できなかったと同様、半導体不足を世界中の大半のメーカーが予測していませんでした。異論もあるでしょうが、製造業にとってサプライチェーンに磨きをかけるということは、たいていの場合中間材料や部品の在庫をミニマムに抑えること、いわばネットワークの「内側」での最適化を意味してきました。在庫削減は、財務上の観点、資金回転の観点からは経営的にもちろん望ましい取り組みですが、半導体不足という予期せぬ事態には、裏目に出てしまいました。
基幹部品である半導体が、台湾という高度な生産基地から安定的に供給されることを前提として築かれていた多くのサプライチェーンにとって、台湾以外の「セカンドベンダー」的な供給拠点を開拓する意欲は薄いものでした。半導体供給不足を予測していなかった、として企業の現経営層を責めるのは、酷というものでしょう。このほかにも、フォード、ゼネラルモーターズ、フォルクスワーゲン、ダイムラー、BMW、ルノーなどの自動車メーカーは、 2月にテキサス州で発生した異常気象により大手半導体チップメーカーの生産が停止し、3月には日本の大手マイクロチップメーカーで火災が発生したことに打撃を受け、生産の遅れ、停止といった事態に陥りました。