IFRSの非強制化と四半期報告書の廃止に貢献

講演の冒頭、スズキトモ教授(以下、スズキ教授)」は自身の経歴に触れながら、日本の会計制度に与えた影響について語った。
「13年前、この財務の世界で、国際会計基準を全上場会社に強制適用するということが規定路線になっていた時期がありますね」
スズキ教授が作成した『オックスフォードレポート』が、IFRSの過剰な適用を見直すきっかけとなり、3,800社に強制適用されるはずだったIFRSが任意適用となり、現在は約200社にとどまっている。
財界人の一部からは、「IFRSを弱めてくれてありがとう、次は四半期開示制度の適正化もなんとかしてほしい」という声が届いた。
そうした声を受け、スズキ教授は315ページに及ぶ詳細な報告書『関経連レポート』を作成し、この報告書が国会で取り上げられ、最終的に四半期報告書の廃止につながったという。
将来世代に対するプライドと付加価値の再定義
「CFOとしてすでに確立された地位にある皆様方ですが、真の心からプライドを持って仕事をされていますか」
講演本題に入り、スズキ教授はこう切り出した。株価上昇やPBR改善といった表面的な成功指標ではなく、そのプライドの源泉は「将来世代に対するプライド」であるべきだと強調する。この問いかけは、現代の企業経営における価値観の転換を促すものだった。
講演は最近の公認会計士試験の問題から始まった。「利益ゼロの会社の存在意義を付加価値という概念を用いて説明せよ」という問題に多くの受験生が困惑したというエピソードを紹介した。これまで利益偏重であった経営や会計の世界で、付加価値を重視する時代に移りつつあることを説明した。
従来のPL(損益計算書)では収益から費用を引いて利益を最大化することが目的とされるが、教授が提唱するDS(Distribution Statement:付加価値分配計算書)では、収益を外部生産価値と内部生産価値に分け、内部で生み出された価値、すなわち付加価値をいかに増やし適正に分配するかが焦点となる。

「付加価値とは内部で付加された価値であり、外部の人が作った価値ではなく、自社で創造された価値です。この個々の企業の付加価値を国内全体で足し込んだものがGDPとなります」
経産省の幹部との対話についても触れ、「資産を売って、自社株買いをやって、ROEを分母を小さくすることによってよく見せている経営がはびこっている」という懸念が政府内にもあることを紹介した。