オミクロン株の感染が拡がり、再び人々の行動が制限されつつある中、2022年が始まった。今年はコロナ禍が終焉を迎え、アフターコロナの世界で新たな成長戦略に企業は舵を切れるのではと思われたが、まだ少し足踏みが続きそうだ。
停滞するビジネス状況の中でも、クラウドを活用しデジタル化に積極的な企業は比較的業績が好調との話が聞こえる。企業がクラウドを使うこと自体はもはや当たり前で、クラウドを使うか使わないかの話ではなく、どう使い具体的にどのようなメリットを獲得するかに話題は変わった。そして得られたメリットを生かし、いかに企業に行動変革をもたらせるかが企業戦略の鍵となっている。
今クラウドに訪れている進化
ここ最近は、クラウドそのものや取り巻く環境が変化しつつある。これまでクラウドと言えば、パブリッククラウドを指すことがほとんどだった。それが今後は、場所を問わずにクラウド技術を使うことも含め、広い概念でクラウドが捉えられるようになる。ガートナー リサーチ&アドバイザリ部門 テクノロジ&サービス・プロバイダー クラウド・サービス、プロダクト・マネジメント担当 バイス プレジデント アナリストの桂島 航氏は、「これまではクラウドとエッジが別々に作られていましたが、これからは、“Cloud-out”といわれるようにクラウドベースのものがエッジに出ていくようになります」と言う。
もう1つの変化は、クラウドのターゲットだ。これまでのAWSやMicrosoft Azureなどのハイパースケールクラウドは、エンジニア向けに作られ提供されてきたものだった。この段階では技術を理解している人には使いやすいツールであり、大きなポテンシャルを秘めている。一方でクラウドがキャズムを超えメインストリームに入ったことで、さまざまな人が使うようになった。そのため「エンジニア向けだけではなく、ビジネス現場にいる人に価値を感じられるものに変えていかなければなりません。そうしないと、今後のクラウドの成長は、なかなか難しいのでは」と桂島氏は言う。
この状況を受け、今後クラウドベンダーはエンジニアから「ビジネスバイヤー」にターゲットを変えるとガートナーでは仮説を立てている。これに関連し、アプリケーションのノーコード/ローコード開発も注目を集めている。コードを1から書いて作るのではなく、既にある機能をインテグレーションして、少しカスタマイズして使う。このアプローチでアプリケーションを構築するのが、今後は重要となる。もちろんエンジニア向けの高度な開発もあるが、これからはビジネスバイヤー向けに機能を組み合わせ最適化する動きが、今後数年で確実に増えるだろう。
さらにクラウドの世界における、開発者向けの変化もある。クラウドネイティブな技術は、これまでは新しいアプリケーションの開発で利用され「とがったデジタルサービス向けなどで使われていますが、全体から見ればそれはまだまだ小さい取り組みでした」と桂島氏。それがここ最近は、クラウドネイティブな技術を用いることが、徐々にアプリケーション開発全体における標準的な取り組みに代わってきているのだ。
そのため、ITの組織もクラウドネイティブな技術を活用できる体制、つまりはアジャイル開発やDevOpsに対応できる体制に変化しつつある。これはユーザー企業側の体制を大きく変えるだけでなく、SI企業のビジネスモデルもクラウドネイティブに対応できるものに変わらなければならないことを意味する。
もう1つ別の角度から、クラウドに対する大きな影響も出ている。クラウドは急激に成長するビジネス市場であり、今後も成長は続くだろう。そして「これだけ大きくなってしまうと、社会的な責任も非常に大きくなってきます。先日もAWSのサービスが止まった際に、ものすごく大きな騒ぎになりました」と桂島氏。今やAWSのような多くの企業が利用するサービスで何らか障害が発生すれば、さまざまなビジネスに影響が出る。場合によっては社会インフラサービスが停止しかねない。クラウドは、社会的な責任を果たす上で大事なフェーズに差し掛かってきていると指摘する。