データサイエンティストに至るまでには“挑戦の連続”
少子高齢化が進む日本においては各業界で人手不足が叫ばれている中、IT業界も例外ではない。DXを背景にデータドリブン経営に舵を切る企業も多く、データ利活用のための専門人材は引っ張りだこだ。とはいえ、外部人材の登用はコストも時間も要するだけでなく、競争力のある企業に集まるなど一筋縄ではいかない。そのため、従業員への再教育「リスキリング」に注目が集まり、DXに向けて学び続けることが求められている。
2022年4月に情報処理推進機構(IPA)により公開された『デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)』を見てみると、“学び続ける人材育成に向けた取り組み”が示されているだけでなく、キャリア形成と学びには相関関係があり転職志向者、学びなおし経験者はキャリアアップ、キャリアチェンジに積極的だとする結果も示されている。また、希望業務に従事するためには転職もいとわないとする傾向が高まるなど、企業にとっても専門人材を獲得するためには選ばれる企業になるための取り組みが欠かせない。
そこで今回訪ねたのは、キャリアアップを続けながら、現在paizaでデータアナリスト/データサイエンティストとして活躍している森川友香氏だ。同社は、ITエンジニア向けの転職サービス「paiza転職」をはじめ、就活やプログラミング学習サービスを提供しており、利用したことのある読者も多いかもしれない。創業10期目を迎える中でデータドリブンな事業展開を強化していくため、約4ヵ月前に社長直下にデータアナリストである森川氏を迎え、マーケティングとデータ分析に注力しているという。
そんな森川氏は大学で国際法を専攻し、貧富の差が激しい世の中において、社会的弱者を守れる法律、行政の在り方を研究。「高校生の頃から興味をもっていたのですが、国際法は法的拘束力が弱く、学習するうちにジレンマを感じていました。そこで、他の方法で社会的弱者に関する課題解決を図れないかと考え、人間の基本的な経済活動はモノを売ることだと。そこで、マーケティングに惹かれ、新卒で広告代理店に入社しました」と森川氏は振り返る。
当時はデジタルマーケティングが徐々に浸透する中で、“アドテクノロジー”の黎明期でもあった。ダイレクトマーケティングの知識を身につけながらDMやパンフレット制作、Web広告などを担当。経験を積んでいく中で、社会的弱者をなくしたいという学生からの思いもあり、実際にマーケティングで途上国のビジネスを拡大できるかどうかを検証するため、JICAの青年海外協力隊として1年間ドミニカ共和国へ赴任する。
「実際にドミニカでは、地方の観光地をデジタルマーケティングで活性化させるためのプロジェクトに配属されました。いかに、効率的に集客したお客様に消費を促すか、レストランで食事をしてもらったり宿泊してもらえたりするかを考える中で、やはりデジタルマーケティングは世界共通言語だと感じましたね」と森川氏。現地では、数字やデータが嫌いだとアレルギーを示す人もいるなど、広告を打ったりWebサイトを改善したりする中で日本との違いもあり苦労したという。1年におよんだプロジェクトも現地スタッフと協力しながら完遂。その一方で、マーケティングの知識は活かせるものの事業の一部でしか支援できず、経営全体を俯瞰する力を足りないことを認識する。
「もちろん、デジタルマーケティングで一部を支援することはできたのですが、小規模な店舗を経営している方が多いこともあり『従業員を雇った人がいいですよ』『コストを削減するためにはこうするとよいですよ』といった経営全般に関わる支援もできたらと思うようになりました」と森川氏。帰国後は、すぐにマーケティングのスキルを活かす道を選ばずに、経営コンサルティングファームを選んだという。
これまでマーケティングを主としていた森川氏にとっては、まさしく新天地となった経営コンサルティングファーム。そこでは、主に新規事業立案に携わっていくことになった。たとえば、大手製造業の植物工場に関する案件では、どのように参入していけばよいのか、3ヵ月で戦略を提案することを求められたと振り返る。「植物工場の“しょ”の字も知らなかったため業界について調査し、どの作物を作ってどう売ればよいのか、コスパがよい作物はなんだろうとひたすら調べては戦略を考えましたね。そのときは、イチゴやシイタケなどの作物の本をたくさん買ったことを憶えています(笑)」と森川氏は振り返る。
コンサルタントとして励む中で、特に記憶に残っているのが “ジェネラリストとスペシャリスト両方の視点を持つこと”の重要性を説かれたことであるとして「精緻に見ることのできる虫の目だけでは広く物事を捉えられず、鳥の目も必要になると叩き込まれました」と語る。