日本でも数少ない「脱炭素」に挑むCPO
脱炭素やカーボンニュートラルの動きが活発化している。日本を含めた各国地域が2050年のカーボンニュートラル実現を表明している中、民間企業でも主体的な取り組みを求められており、経営上の重要課題として位置付けている企業も少なくない。2022年6月2日に開催されたJEITA(電子情報技術産業協会)の会見では、産業界におけるカーボンニュートラルの動向にも言及。「Green x Digital コンソーシアム」において、サプライチェーン全体の二酸化炭素(CO2)排出量の可視化はもちろん、共通データフォーマットの策定などグローバルなルール形成の重要性が示されたことも記憶に新しいだろう。
こうしたCO2排出量などを可視化するためのサービス市場は拡大しつつも、依然として欧米で先行して盛り上がりをみせている状況である。その中で、日本においてクライメートテック企業としてクリーン電力小売事業やCO2排出量算定SaaSを提供しているのがアスエネだ。2019年10月に創業されたスタートアップであり、「サスティナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」推進に取り組んでいる。
「CO2排出量見える化・削減クラウドサービスCO2排出量を見える化するSaaS『アスゼロ』、CO2ゼロのクリーン電力サービス『アスエネ』という二つのサービスを軸に事業を展開しています。脱炭素やカーボンニュートラルは、金融庁や東京証券取引所による『コーポレートガバナンス・コード』[1]の改訂でも掲げられている重要なキーワードであり、一度は耳にしたことがあるでしょう。多くの企業が積極的に取り組もうとする一方で、どこから着手すればよいのか戸惑っている様子も見受けられます」と語るのは、同社で執行役員 CPOを務める渡瀬丈弘氏だ。
ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)に関する情報開示を積極的に実施することは企業価値向上に欠かせなくなっており、多くの投資家なども重要な判断要素としている。それだけに取り組みに向けた動きは加速しているものの、温室効果ガスの算定から着手しようとしたけれども時間がかかったり、時間や人数などのリソースが割けなかったりと思うように前進しないことも珍しくないという。
渡瀬氏は、「そもそも正しいやり方がわからないという問題があります。大企業に限らず中小企業においても脱炭素への意識は高まっており、さまざまな相談を受けるようになりました。まずは、請求書などの紙やPDFを基にCO2排出量を可視化するところから始められるようSaaSを提供しており、企業によっては環境価値証書やクリーン電力と相互利用するところまで進んでいます」と説明する。
現在CPOを務めている渡瀬氏は、もともとITコンサルタントとして電通国際情報サービス(ISID)でキャリアをスタートしており、リクルートへ転職後に受付管理SaaS「Airウェイト」立ち上げで全社トップ表彰されるなど、プロダクト開発において才覚を発揮してきた人物だ。電力小売ビジネスを起案・推進した経験もあり、SaaSプロダクトを活用して“脱炭素”というグローバル規模の課題解決に取り組みたいと同社に移ったという。
プロダクトの戦略立案や機能定義など、リリースまでの責任を負いながら、開発組織の運営も担っている渡瀬氏は、「短期的な機能開発ではなく、実現したい世界観に対する最適解を考え、推進役を担うことがCPOの役割だと思っています。つまり、誰からも感動されない “イケてない” プロダクトになったときの責任はすべて私にあるということです」と語る。
そんな同氏は、プロダクト開発において“人間は本質的に変わらない生き物”として考えることを重要視しているという。たとえば、今多くの人が利用している健康管理アプリは違う形になろうとも、本質的に求められる機能は変わらない。多様なサービスが提供される中で本当に選ばれるためには、“シンプル・カンタン・スマート”に課題を解決できるかどうかだと説明する。
また、CPOにはエンジニアリングのバックボーンも必要だとし、「データ分析のためにSQLを叩けたり、実際に実装を経験したりすることは重要です。そこを理解できないとエンジニアと同じ言葉で話すことができません。もちろん、技術的に尖っている必要はありませんが、相手を理解する必要があります。エンジニアやデザイナーなどに正しい情報を届けることもCPOの仕事です」と説明する。
あくまでもイノベーションを生み出すのはエンジニアやデザイナー、マーケターなどのメンバーであり、自身は常に黒子としてメンバーの橋渡しを担う。最適な動き方や考え方を提供して、中長期的な目線でもプロダクトをよい方向へ導くことが求められているという。
[1] 『コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~』(東京証券取引所)