ベイシアグループの「はりねずみ経営」とは?
国内流通業で売上高1兆円を超えるのはベイシアグループを含めて7社。成長を支えたのが「はりねずみ経営」である。通常は持株会社がグループ会社を支える構図だが、ベイシアグループは違う。持株会社が縁の下の力の持ち的にグループ会社を支える。グループ会社は「はりねずみ」のように、自分たちの強みを発揮する“尖った”存在であり続ける。とは言え、それぞれが個性を発揮しても、個社では限界があることもある。その場合は持株会社がサポートするが、標準化を名目に指導を押し付けるわけではない。
2021年7月からグループに参画したCDO/CIOの樋口氏が、DXの実践で利用しているのが、バリューチェーンのフレームワークである。一般に、小売業のバリューチェーンは商品企画、開発、製造、物流、マーケティング、販売へとつながっている。同じ小売の業態だからといって、グループ個社のバリューチェーンは同じではない。細かく見ると、それぞれ少しずつ異なる。わかりやすいのがワークマン、ベイシア、カインズの業態の違いである。生活の「衣食住」で分けると、「衣」をワークマン、「食」をベイシア、「住」をカインズが受け持つ。
物流であれば、ベイシアは冷蔵品や冷凍品での輸配送が必要になるのに対し、ワークマンやカインズは常温品しか扱わない。求められるスピード感も異なる。食品を扱うベイシアでは、晩ご飯どきに商品が揃っていなければならない。衣料品やDIY用品とは商品ニーズも異なる。そうなると、需要予測のやり方も同じにはできない。バリューチェーンにおける変革ポイントは、個社それぞれで変える必要がある。
とは言え、グループ全体でやるべき共通部分はある。その代表例がデータ活用だ。グループ各社がそれぞれに顧客と接していたとしても、同一人物を別々に扱うようでは体験価値が損なわれる。また、ポイント還元をするにも、個社単位では施策が分散してしまう。イオングループや楽天のように、金融事業をグループ内に抱える競合も存在する。だからこそ、ベイシアグループは、データ活用以外でも、働き方改革、ペーパーレス、グループ共通基盤のように、個社でやるべき部分とグループ横断でやるべき部分を切り分けてDXに取り組んでいる。