
本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「国際裁判管轄」です。耳慣れない言葉かもしれませんが、システム開発を海外企業へ依頼するケースが増え、海外企業とのトラブルが起こる可能性が高まっている中で、覚えておくべき言葉です。思わぬ落とし穴にはまらないためにも、ここでしっかり理解しましょう。
外国企業とIT紛争 裁判は日本でできるのか?
今回は「国際裁判管轄」という、システム開発においてはあまり耳慣れない、少々堅苦しい題材をとりあげます。昨今、システム開発を海外企業へ頼んだり、海外のパッケージソフトウェアやクラウドサービスを使うことが増えてきた結果、海外企業を相手にした紛争の可能性も以前より高まっています。読者の皆さんも、もしかしたら、そんなことに巻き込まれることが、今後出てくるかもしれません。

では「国際裁判管轄」とは、なんでしょうか? ごく簡単に申し上げると、海外の企業等団体や個人を相手に裁判をするとき、その裁判をどちらの国で行えるのかということに関する取り決めです。
たとえば、日本の企業が中国のIT企業にシステム開発を依頼したが、これが完成しなかったとき、その損害賠償を求める裁判は日本の裁判所で行えるか、それとも中国の裁判所になるのかという問題は意外と複雑です。
実際に仕事をした場所が日本だから日本の裁判所だとか、訴えられる会社や役員の住所が中国だから中国だとか、あるいは損害賠償に充てる財産が日本にあるのだから、やはり日本だとか、様々な観点から総合的に判断されます。
無論、きちんとした契約書に国際裁判管轄が記されていれば、原則としてはそれに従うのですが、契約書自体が曖昧なこともあり、実際にはこの判断を巡って裁判になることも少なくないのです。
自社のシステム開発を中国やベトナム、インドなどの企業に委託した経験のある方もいらっしゃるでしょう。あるいは米国の様々なソフトウェアサービス(クラウドサービスやパッケージソフトウェアなど)を利用するケースもあるかもしれません。
そうした中で相手側となんらかの法的紛争になってしまったとき、その裁判が日本で行われるのか、相手国等の海外で行われるのかは、裁判自体の行方を左右することもある重大な問題となってしまいます。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア