NTTデータがベンチャー制度を再始動、忘却から一転なぜ
NTTデータには昔から社内ベンチャー制度が存在していた。たとえば、NTTデータ・イントラマート社。コンポーネントを組み合わせることで、短期間かつ低コストで業務アプリケーションを構築できるような製品・サービスを提供している。まさにNTTデータとは補完関係にあるグループ企業だといえるだろう。もともとは1998年にNTTデータの社内ベンチャーから事業をスタートした同社。2007年に東証マザーズに上場、今では東証スタンダードに移行し、DXを支援する企業の1つとなっている。
しかし月日が経つにつれ、NTTデータの社内ベンチャー制度は消え去りかけていた。制度の存在を知る社員は減り、申込みもほぼなかったという。同社 経営戦略室長の米田氏は「かつてのベンチャー制度では、起業ハードルが高くなっていた」と説明する。このハードルとは相当の売上規模やNTTデータとのシナジーを求めていたことだ。また後に社内ファンドが生まれたことで、“新規事業の種”が吸収されるようになり、結果として社内ベンチャー制度の認知度が相対的に下がった背景もある。
転機となったのは2023年7月、NTTデータグループの持株会社体制(3社体制)への移行だ。新体制への移行において、NTTデータでは若手社員が10年後のNTTデータに向けて提言する「未来を語る100人プロジェクト」を実施。その提言の1つにベンチャー制度の見直しがあり、経営陣が応じて刷新が実現した形だ。ベンチャー制度は完全に忘れ去られていたわけではなかった。
なお同プロジェクトでは、2023年末からのベンチャー制度以外にも、社員のキャリアの幅を広げるための新しい制度が生まれている。たとえば2024年度には、所定労働時間の2割を自分で見つけた“やりたい仕事”に使うことができる「デュアルキャリア・プログラム(社内兼業制度)」、さらに2024年度下期からは“多様な総合力”を生み出すための「社内コミュニティ支援制度」のトライアルも始まった。起業、兼業、コミュニティ……どれも経験することで世界が広がるものだ。
そして新生ベンチャー制度の創設にあたっては、“過去のハードル”を払拭することが念頭に置かれた。起業テーマは自由とし、売上規模の大小や既存事業とのシナジーも問わない。米田氏は「ベンチャー制度で生まれた会社が持続可能な形であればいいのではないか。社員がやりたいことをやれるのが一番」と話す。この寛容さには、社員の成長への期待がある。
「事業を起ち上げ、会社を作ろうとする過程でいろいろなことを経験できます。事業がうまくいけば、それに越したことはありませんが、成功だけを求めていません。失敗してもいい。その経験で学んだことが回りまわってNTTデータに好影響を及ぼす、そう考えています」(米田氏)

事業戦略担当 経営戦略室長 米田友洋氏
ベンチャー制度の刷新には、経営陣の思いも強く反映されている。その背景にあるのは、時代変化への危機感だ。同社には、これまで培ってきたシステム開発・運用の高度な知見があり、しばらくはニーズがあるだろう。しかしクラウド化やアジャイル開発といった潮流の変化、生成AIという新たなテクノロジーも登場するなど、IT環境が大きく変化するなかで同じままではいられない。変化がなければ活気も次第に失われ、結果的には人間だけではなく、ビジネスも縮退していく。もちろんこれはNTTデータに限る話ではない。