4つのオブザーバビリティにおける技術トレンド 導入にあたって留意すべき点とは
徹底理解「オブザーバリティ」その③ オブザーバビリティの技術トレンドと活用に向けた留意点

本連載「クラウド時代に求められる『オブザーバビリティ』とは」では、エンタープライズITの領域で注目と関心を集めている「オブザーバビリティ」の全容を明らかにするためのものです。前回は、オブザーバビリティとはそもそも何であり、なぜ必要とされているかを解説しました。3回目となる本稿では、オブザーバビリティを実現するための製品の技術トレンドと製品を導入し、活用するうえでの留意点について解説します。
オブザーバビリティにおける技術トレンド
前回、オブザーバビリティを実現するための要素技術について解説しました。今回は、それを踏まえつつ、まずオブザーバビリティ製品の技術トレンドについて確認していきます。
オブザーバビリティ製品の技術トレンドとして注目すべきものは大きく4つあります。それは「AI(人工知能)/機械学習機能のサポート」「OpenTelemetryの普及」「ユーザー体験の可視化」「DevOps環境への対応」の4つです。それぞれの概要は以下のとおりです。
AI/機械学習機能のサポート
オブザーバビリティ製品におけるAI(人工知能)/機械学習機能の搭載は、かねてから進められてきたものです。主な目的は、収集したテレメトリデータから何らかのパターンを導き出して、障害予兆の早期発見やアラートの発出に活かすことです。従来のモニタリングでは、あらかじめ設定したしきい値にもとづいてシステムの異常を機械的に検出するという方式がとられてきました。それに対してAI/機械学習を使った観測では、データの学習によって導き出した観測対象固有のパターンにもとづきながら、観測対象がどのような状態にあるのかを人が介在することなしに推定することを可能としています。
OpenTelemetryの普及
前回も触れましたが、「OpenTelemetry」は、テレメトリデータの収集と管理のために用意されたフレームワーク(API、SDK、ツールなどのセット)であり、ベンダー固有のフレームワークやライブラリに依存しないテレメトリデータの収集とバックエンドへの送出を実現するものです。機能的にはベンダー固有のフレームワークやライブラリに比べて未成熟の部分があるものの、OpenTelemetryを活用することでベンダーロックインを避ける形でオブザーバビリティの実装が可能になります。そうしたことから、OpenTelemetryは急ピッチで普及し始めており、多くのオブザーバビリティ製品がOpenTelemetryをサポートし始めています。
ユーザー体験(UX)の可視化
トレースによって実現されるAPM(アプリケーションパフォーマンス管理)の領域ではかねてから、アプリケーション、サービスの利用者がどのような体験をしているかを可視化する「リアルユーザーモニタリング」の実現が重要視されてきました。それはオブザーバビリティの領域でも同じく、ユーザー体験を可視化して、そこに問題があれば即座に改善を図れるようにすることは、オブザーバビリティ製品の注力ポイントであり続けています。
DevOps環境への対応
オブザーバビリティ製品はこれまでITインフラやアプリケーション、サービスの実行環境を観測の対象としてきました。今日ではDevOpsにおいてビルド、テスト、デプロイの効率化・自動化を実現するCI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリ)パイプラインも観測対象にする動きが活発化しています。
前回触れたとおり、オブザーバビリティの必要性が高まった大きな要因として、エンタープライズシステム(アプリケーション、サービス)のマイクロサービス化のトレンドがあります。これは、エンタープライズシステムの変化(市場ニーズやビジネス要求の変化)への即応力を高めるためにコンテナ技術を使い、アプリケーション、サービスを構成する機能の変更、拡張のスピードを増す動きでもあります。

その取り組みが活発化するのとあわせて、開発と運用を一体化させたDevOpsを推進する必要性が高まった結果として、DevOpsのプロセス、すなわちCI/CDのパイプラインに対して、ソフトウェアのセキュリティ、品質を担保する仕組みを組み込むことの重要性が高まりました。その流れの中で、オブザーバビリティの観測対象として、CI/CDパイプラインが含まれるようになったといえます。
加えていえば、オブザーバビリティを支える要素としてトレースが含まれ、かつ、CI/CDパイプラインが観測の対象になっていることは、エンタープライズシステムの運用基盤のクラウド化が進んだことも挙げられます。つまり、エンタープライズITにおけるモニタリングの主たる対象が、ITインフラからアプリケーションやサービス(あるいは、プログラムコード)にシフトしていることの現れでもあるのです。
これを言い換えれば、IT運用管理の担当者が“ITインフラ”だけをモニタリングしていればよい時代は終わり告げ、開発チームと一体となってアプリケーション、サービスのモニタリングを行い、問題があれば改善をスピーディーに図っていくことが求められているといえます。
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清水 幸弥(シミズ ユキヤ)
Elasticsearch株式会社
ソリューションアーキテクチャ、シニアマネージャーSolution Architectとして、Elastic製品の提案活動、顧客の検索プロジェクトやデータ分析プロジェクトにおける技術支援に従事。Elastic入社前は、複数の外資系ベンダーにて、主にクラウドインフラやITO...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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