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ロシア・ウクライナ戦争が引き上げたサイバー経済スパイの脅威、日本も問われる対処とは

サイバー空間における経済安全保障リスク

 2022年は、まさに経済安全保障元年であった。2021年の第二次岸田文雄内閣では経済安全保障担当大臣が新設され、翌2022年に経済安全保障推進法が成立した。同法では、(1)重要物資の安定的な供給の確保、(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保、(3)先端的な重要技術の開発支援、(4)特許出願の非公開に関する4つの制度の創設が示されている。いわゆる四本柱であるが、本記事では、経済安全保障それ自体の重要性や背景を今一度確認した上で、経済安全保障リスクとサイバーセキュリティとの関係を明らかにすることに焦点をあてたい。

経済安全保障とエコノミック・ステイトクラフト

 経済安全保障とは、自民党の新国際秩序創造戦略本部(当時)の定義によれば“我が国の独立、生存、繁栄の経済面からの確保”を意味する。これは非常に広範囲にわたる概念であるが、具体例を考えるとイメージが掴めるだろう。たとえば、2010年に尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した際、漁船の船長を逮捕した後、中国がレアアースの輸出制限を行った事件がある。

 因果関係には諸説あるが、レアアースのように資源の地域偏在性が高く、調達代替が困難かつ、重要性の高い物資が輸入出来なくなると、経済面での打撃が大きく、中国の要求を飲まざるを得ない状況になる。いわゆるチョークポイントを握られた状態である。

 このケースを中国側から見ると、“経済的な手段を用いて、政治、外交、安全保障などの、戦略的な目的を達成しようとしている”と解釈できる。こうした影響力の行使は「エコノミック・ステイトクラフト(Economic Statecraft)」と呼ばれる。経済安全保障の一つは、このようなエコノミック・ステイトクラフトから、自国の利益を守るために、何らかの措置を講じることである。

 同ケースでは、レアアースを備蓄するか、中国以外からも輸入するか、レアアースを使用しなくて済む代替手段を講じて、リスクのある外国に依存しないサプライチェーンを構築することになる。最近ではエコノミック・ステイトクラフトと似た「経済的威圧」という言葉がよく使われ、2023年5月のG7広島サミットの首脳宣言でも、中国の経済的威圧に対する強靭性の促進が述べられているが、同じ趣旨である。

 また、将来の安全保障リスクとなるような、経済的な活動の制限も経済安全保障の範囲に含まれる。たとえば機微技術の流出防止だ。

 近年、各国で開発が著しい極超音速ミサイルを例に挙げてみよう。このミサイルは、宇宙空間に届かない大気圏内の低高度をマッハ5以上の速度で飛行し、かつ進路を変更するため、従来型のミサイル防衛では探知および迎撃が難しいとされている。そしてこのミサイルの表面に使用される耐熱素材技術は、日本から中国に流出したと言われているのだ。

 このような安全保障の脅威につながる技術流出を防ぐために、経済スパイの取締りに加えて、輸出規制や内外投資規制を行う必要がある。そして、経済安全保障を追求する上で重要な概念が二つある。前述の新国際秩序創造戦略本部(当時)より提唱された、「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」である[1]

画像提供:サイバーリーズン「経済安全保障とは」【画像クリックで拡大】
画像提供:サイバーリーズン「経済安全保障とは」【画像クリックで拡大】

 「戦略的自律性」とは、経済活動の維持に不可欠な基盤を強靭化し、他国に依存することなく、国民生活の維持と正常な経済運営を実現することである。「戦略的不可欠性」とは、逆に我が国の存在が、国際社会にとって不可欠であるような分野を戦略的に拡大し、チョークポイントを握れるようにすることが挙げられている。

[1] 自由民主党 政務調査会 新国際秩序創造戦略本部、「提言『経済安全保障戦略』の策定に向けて」(PDF)

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なぜ今、経済安全保障なのか?

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この記事の著者

中村 玲於奈(ナカムラ レオナ)

AIG損害保険株式会社・サイバーリスクアドバイザー。外資系ITベンダー/セキュリティベンダー、監査法人系コンサルティングファームを経て現職。これまで大規模システム開発や様々なサイバーセキュリティコンサルティング業務に従事し、現在は、サイバー保険にかかるサイバーリスクのアドバイザリー業務を担当。サイバ...

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