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なぜ企業は「オンプレ回帰」するのか?米Kyndrylのクラウドリーダーにモダナイズの失敗原因を訊く

成功しているのはわずか55%ほど……。「2025年の崖」を前に日本企業が今すべきこと

 日本企業の多くを悩ませるITのモダナイズ。米国でもクラウド移行後に45%しかオペレーションを拡張できないなど、決して簡単ではないようだ。米Kyndrylでクラウド担当のグローバル・プラクティス・リーダーを務めるHarish Grama(ハリッシュ・グラマ)氏に、世界のトレンド、成功のポイントなどについて聞いた。

モダナイズに悩むのは日本だけでない

──まずは、Grama様の経歴とKyndrylでの役割を教えていただけますか?

 UNIXカーネル開発者としてキャリアをスタートし、その後IBMに入社。主にIBMでキャリアを積んできましたが、2016年から2年間はIBMを離れ、金融機関であるJP Morgan ChaseのCIO兼マネージング・ディレクターを務めました。ここでは、アプリケーションとインフラをハイブリッドクラウド、パブリッククラウドへ移行させる変革の指揮を執りました。その後、IBMに戻ってソフトウェアビジネスで様々な部署を経験し、2018年から2021年は数十億ドル規模のパブリッククラウド事業を統括しました。

 そして現在は、Kyndrylのグローバル・クラウド・プラクティス・リーダーを務めており、クラウド・オファリングの開発、提案、デリバリーなどクラウド・プラクティスのすべてを見ています。Kyndryl社内には6つの主力事業領域がありますが、クラウドは社内最大の組織です。

 このようにIT業界に長く身を置いており、テクノロジーベンダー、テクノロジーを活用する事業会社の両方を経験した後、企業のクラウド変革を支援する組織のリーダーを務めているという流れです。

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Kyndryl グローバル・クラウド・プラクティス・リーダー Harish Grama氏

──日本では経済産業省が「2025年の崖」として、レガシーシステムからの移行が遅れることで経済的損失が大きく出るというレポートを出すなど、モダナイズの遅れが指摘されています。グローバルでのモダナイズへの取り組みの概観をお聞かせいただけますでしょうか。

 モダナイズは、日本に限らず世界中の企業や組織にとって重要なイニシアティブになっています。2025年という特定の時期で語られていないものの、永久に続くシステムはありません。どこかの段階でモダナイズに着手する必要があります。どの時期までにどれほど進めるか、計画的に行うことになりますが、着手の時期もペースも企業によって異なります。

 「システム刷新を先延ばしにしたい」と考えるのは日本企業だけではありません。特にビジネスが順調なときは、すぐに何かを変える必要性を感じないものです。自社のテクノロジーがビジネス上の目標達成を支えることができないと気づいたときにようやく危機感や緊急性を感じ、モダナイズに着手することが多いと言えます。

 なお、モダナイズの必要性を感じる要因はビジネス上の課題だけでなく、新たに入社する社員が求めるニーズを満たせていない、セキュリティを担保できない、新しい法規制などによるガバナンスやコンプライアンス対策も考えられるでしょう。インフラとアプリケーションを変革しなければ、それらの課題は克服できないでしょう。

クラウド移行がうまくいかない理由に“非現実的な期待”

──モダナイズの取り組みが進んでいる企業がある一方で、苦労している企業も多い印象です。 モダナイズに苦労する理由をどのように分析しておられますか?

 インフラやアプリを刷新するのですから、モダナイズは簡単ではありません。苦労している企業はたくさんあります。理由は様々ですが、ここでは3つ挙げましょう。

 1つ目として、非現実的な期待を抱いているケースがあります。たとえば、変革しながらコスト削減もできると思っていたり、短期間で終わると考えていたりといったこと。しかし現実はそうではありません。

 2つ目として、IT部門と事業部門とで優先順位が異なるまま個別に取り組んでしまうことが挙げられます。企業全体で優先順位を共有し、しっかり連携して取り組むことが重要です。

 3つ目は、モダナイズにあたって必要になる作業の複雑性を軽視していること。変革にはかなり入念な準備が必要です。それをせずに着手すると、苦労することになります。

 KydrylがForrester Consultingに依頼して実施した調査[1]によると、変革した後に必要に応じてオペレーションを拡張できる組織は55%でした。つまり、45%は拡張できないということになります。クラウドに移行するときはクラウドの運用モデルをセットで導入しなければなりませんが、運用モデルをきちんと考えていなかったのだと言えます。

 加えて、「混乱や停止などの障害に迅速に対応できる」という組織は52%、「予想していないイベントに容易に適応できる」と回答したのが48%でした。残りはそうではないということになります。

 コストについても、 クラウドのITコストを予測・管理できているという組織は48%にとどまりました。セキュリティでは、43%しかセキュリティ上の問題を容易に特定できていません。

 人材面の課題も浮き彫りになりました。現在の運用モデルを管理するのに十分なスキルセットがあるという企業はわずか42%。スキル欠如は、モダナイズに失敗する最大の要因とも言えます。既存のスキルで対応しようとしてもその場しのぎに過ぎず、最終的にあるべき姿にはなりません。

 これらの調査は主に米国企業を対象としていますが、課題は日本を含む世界に共通していると認識しています。

[1] Kyndryl「Why Businesses Struggle to Modernize IT Systems」(2023年3月30日)

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成功のポイントは「事前準備」と「移行後」

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)

EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。

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