トヨタ自動車:AIが革新する次世代シートフレームデザイン
本格的な生成AI時代の到来にあたり、藤村氏は「解放」「創造」「革新」「未来」をキーワードに、4人のリーダーがそれぞれどんな取り組みを実施したかを紹介した。まず、「解放のリーダー」として紹介されたのは、トヨタ自動車の大森慎介氏(ビジョンデザイン部 インテリアデザイン室 主幹)である。
大森氏はAIを使い、乗用車のシートフレームのデザインを行なった。大森氏によれば、クルマのシートフレームのデザインで最も難しいのが「薄くすること」だという。コンセプトカーであれば、自由に理想のデザイン追求が許されるが、商用車は違う。厳しい制約が課されてのデザインを形にしなくてはならない。特に重要になるのが安全性である。大森氏が目指したのは、イメージ先行で終わらず、量産可能な機能性の高いデザインを実現することであった。
加えて、最近ではサステナビリティに配慮しなくてはならない。コストの制約もある。外観の美しさと機能性の両立は可能か。これまでのやり方に限界を感じていた大森氏は、ジェネレーティブデザインに関心を持った。とはいえ、当初の期待はさほど高いものではなかったという。どちらかといえば、「失敗して当然」という軽い気持ちで始めたことだった。
AIが最初に提案を基にしたデザインは、中心に背骨が通っていて、横は薄い骨で身体全体を包み込むようにサポートする立体的な形状であった。AIはデザインの完成形を示したわけではない。出力結果を調整しながら、デザインを完成させた。大森氏によれば、最初に図1左側のデザインを見た社員たちの反応は「何だか気持ちが悪い」というものだったが、興味深いことに、右側のブラッシュアップ後のデザインを見た後は、打って変わって「構造的に新しい」と評価する声が多数を占めたという。
藤村氏は、大森氏のコメント「デザインでAIツールを使うときに重要なことは、お客様が求める快適さ、使いやすさをシンプルに美しく、素直に表現すること。そして、トヨタのデザインとしての方向性を明確にすることが大事」を紹介した。AIはこれまでの固定概念を取り払ってくれる。その解放感は「面白いね」「やってみたいね」と周囲に伝播する。藤村氏は、ジェネレーティブデザインはワクワク感を醸成し、新しい発見を求める人のためのツールになると評した。