生成AI活用で直面する“利用率の低下”……日清食品HDとパーソルHDが「社内浸透策」を明かす
「第12回CIO賢人倶楽部公開セミナー」セッションレポート

国内で早期にChatGPTの活用をスタートした日清食品ホールディングスとパーソルホールディングス。独自の社内版ChatGPTを内製開発し、業務に取り入れることで飛躍的な生産性向上を図っている。2024年6月4日に開催された第12回CIO賢人倶楽部公開セミナーでは、両社のキーパーソンが登壇。決して平坦ではなかった現場に生成AIを浸透させるためのプロセスや今後の構想を語った。
2023年入社式でCEO自らがChatGPT活用 全社利用の火付けに
日清食品ホールディングス 執行役員 CIOの成田敏博氏は、同社が他社に先駆けて生成AI活用を始めた発端に、経営トップの影響の大きさを強調した。
遡ること2023年4月3日の入社式。安藤宏基CEOは、ChatGPTを使って新入社員へのメッセージを生成し、自ら解説を交えながら「テクノロジーを賢く駆使し、短期間で多くの学びを得てほしい」と激励したという。当時77歳の安藤CEOが初めてChatGPTに触れたのは、このわずか2営業日前。そのときは、驚きを隠せない様子で「こんなことができてしまうなんて恐ろしい時代になったものだ」と口にしていたのだが、その週末にかなり使い込んだらしい。
「日清食品では、『破壊』という言葉をよく使います。誰かに壊されるくらいなら、自分から破壊し、過去の自分たちをどんどんアップデートしていってほしい。これが経営トップの考え方です」(成田氏)

安藤CEOのメッセージは、新入社員はもちろん、同席していた役員や社員にも大きなインパクトを与えた。成田氏も、デジタル領域を管轄する立場として、その日のうちにChatGPTの業務活用に向けたプロジェクトチームを立ち上げるに至ったという。
「守りの部門」を巻き込んで、リスク対策を講じる
成田氏がまず着手したのは、リスクの整理だった。ChatGPTには当時、様々なリスクが指摘されていたのだが、それらはセキュリティとコンプライアンスの2つに集約されると判断し、対策を講じたという。
セキュリティ面では、ChatGPTに入力した情報が外部に漏えいするリスクが懸念された。日清食品グループでは個人情報や取引先情報、機密情報を入力しないよう周知を徹底するとともに、セキュリティを担保する専用環境を構築することにした。
コンプライアンス面では、ChatGPTの回答が常に正しいとは限らず、鵜呑みにして利用することでトラブルが発生するリスクがあった。権利侵害やバイアス、偏見を含む内容を流用してしまう懸念もある。そこで同社では、法務部・内部監査室・リスクマネジメント室・セキュリティ戦略室といった「守りの部門」を早い段階から巻き込み、リスク対策を講じながら生成AI活用を進めることにした。
加えて、リスクを周知するため、ChatGPTへの初回ログイン時には必ず注意喚起が表示されるようにした。利用規約への同意だけでなく、「チキンラーメン」のキャラクター「ひよこちゃん」を使った対話形式でのアナウンス、2回目以降のログイン時もランダムに注意書きを表示されるといった細やかな対策を施したのだ。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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