生成AIにおける生存競争、Oracle Cloudには大きな優位性がある
今から1年程前にOpenAIが「ChatGPT」を公開。なめらかに質問に答える“新しいAI”に、人々は大きく驚かされた。数十億ものニューラルネットワークで構成されているChatGPTは、まさにOpenAIによる10年にわたる研究開発の集大成とも言えるだろう。
Oracle 会長 兼 CTOのラリー・エリソン氏は、「これほど大規模なモデルはかつてなかった」と述べる。かつてない大規模言語モデルの実現に向けてOpenAIは、Wikipediaの情報だけでなく、インターネット上のあらゆるデータを学習させた。新しいアプローチによるモデル開発が行われた一方、ニューラルネットワークそのものは従来から大きく変わっていない。これまでと異なるのはモデルの規模がとてつもなく大きく、膨大なデータを学習させたことだ。
また、ChatGPTがもたらしたインパクトは大きく、新たなリスクを懸念した法的規制についても議論されている。各国政府からの懸念だけでなく、米・ハリウッドの脚本家からは自分たちの仕事が奪われるとの不安の声も上がった。生成AIの普及によって近い未来にどのような世界が訪れるのか。人々は想像し、どう自分が振る舞えば良いかを考えなければならない。
そうしたな状況下、エリソン氏は、今後は世界中で生成AIを活用することで、より良い未来を目指すための大規模なレースが始まると指摘する。そして、新しい技術開発のレースが始まってしまえば、火や槍が人々を傷つけることに使われたり、原子力のように間違った使われ方をしたりするような新たなリスクは生まれ続けるだろう。
「世の中を良くするために作られた新たな技術が、間違って使われることがある」とエリソン氏は指摘する。今後ChatGPTのような新しいAIモデルだけでなく、Cohereなど他の企業から新たなAIが次々と登場していく。テキストや画像に限らず、作曲、コンピュータコードの生成、クルマの自動運転なども可能にする。それらのAIが最も重要なテクノロジーかどうかは、やがて明らかになるはずだとも言う。
たとえば、AIを使って開発された新しい治療薬が臨床試験の段階にある。新型コロナウィルスとその亜種だけでなく、他のSARSやMARSも治療できるような新薬だ。「コンピュータにより設計された小さな分子がウイルスのタンパク質と結合して複製を阻止する。AIで人々の生活を向上させられる」とエリソン氏。AIは、世の中のためになるはずだという。
では、生成AIの登場以降、Oracleにはどのような影響があるのだろうか。エリソン氏は生成AIによる環境変化について「概ね満足できる」と話す。なぜなら、Oracle Cloudが生成AIの発展に大きく貢献できるからだ。特に、Oracle Cloudのコンピュータネットワークについて、競合他社と大きく異なるため、そこが優位性になると主張する。
その大きな要因がRDMA(Remote Direct Memory Access)であり、コンピューター間でメモリに直接アクセスするためのものだ。もともとデータベースの処理を高速化するために生まれたが、大規模言語モデルのトレーニングを行うためにGPUの性能に重きを置いて構成されたコンピュータ間でも極めて有効に働く。
「GPUを相互接続することで、Oracle Cloudのコンピューターは他社クラウドより遙かに速く動作する」とエリソン氏は自信を見せる。そして高速処理できる分だけコスト削減につながり、たとえば2倍速ければコストは半分になるとも言う。特にOracle Cloudは、AIモデルのトレーニングにおいて他社よりも数倍速く、それでいてコストを抑えられると話す。
だからこそ、NVIDIAやCohere、イーロンマスクによるAI企業「xAI」もOracle Cloudを使ってAIモデルをトレーニングしている。「多くのテクノロジーリーダーや新興企業がOracle Cloudを採用している。Oracle CloudでAIを構築した方がより速く、経済的だからだ。その影響もありOracleのビジネスも順調だ」と言う。
これまでOracleでは長期間にわたり、製品の内部や裏側でAIを活用してきた。とはいえ、生成AIはこれまでのAIと異なり革命的なものだ。世の中に変革をもたらし、Oracleという企業そのものも根本から変えようとしている。