SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

予期せぬ事態に備えよ! クラウドで実現するIT-BCP対策 powered by EnterpriseZine

2024年7月10日(水)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

EnterpriseZine Press

SAPはなぜWalkMeを買収したのか? 生成AI「Joule」展開とMicrosoftとの協業へのインパクト

「SAP Sapphire & ASUG Annual Conference 2024」レポート#02

 2023年の年次イベント「SAP Sapphire」で、製品ポートフォリオ全体にAIを組み込む「SAP Business AI」戦略を発表したSAP。1年が経過した今、機能実装はどこまで進んだのか。現地時間6月3日から3日間にかけて行われた「SAP Sapphire 2024」の内容を、AI中心で振り返る。WalkMeの買収、MSとの協業、Jouleによる生成AI戦略、RISE with SAPの今後の展開が語られた。

生成AIアシスタントJouleの最新事情

 Jouleは、SAPのすべてのソリューションをカバーする包括的なデジタルアシスタントとして、SAP製品の新しいUXになろうとしている。「2024年末までに、Jouleは頻繁に実行されるタスクのうち80%を支援することになる」と、初日の基調講演に登壇したクリスチャン・クライン氏(SAP CEO)は展望を述べていた。

 エンドユーザーがJouleを利用できる範囲が拡大するに伴い、裏側のトランザクション処理のやり方が変わる。販売管理で言えば、Jouleは注文内容の登録と変更管理のタスクを制御し、その後の請求手続きから現金回収完了までを支援するようになる。

 さらにJouleは強力なアナリティクスエンジンにもなる。Jouleは広範なデータから企業のビジネス特性を理解し、業績向上に寄与するパターンを見つけることを得意としている。この能力を利用することで、企業はJouleを通してファイナンス、人事、サプライチェーン管理、CRMなどの各領域における戦略的意思決定の材料を、より容易に得られるようになる。

クリスチャン・クライン氏(SAP CEO)
クリスチャン・クライン氏(SAP CEO)

 現在、SAPはJouleをSAPのクラウドアプリケーションでの採用を進めている。クライン氏はJouleとMicrosoft Copilot for Microsoft 365との双方向の連携計画を進めていることを明らかにした。この計画が実現すると、どちらのAIアシスタントを利用していても、シームレスにタスクを実行できるようになる。

モジュール構造からAIドリブンへ、始まった製品アーキテクチャーの変革 出典:SAP [画像クリックで拡大]

 図1のUXレイヤーの下にあるのがソリューションレイヤーである。クライン氏によれば、SAPのAIユースケースは事前トレーニング済みで、アプリケーションのワークフローに組み込まれており、すぐに使用できるという特徴がある。現在、50超のSAP Business AIユースケースを提供している。現在、2024年末を目処にその数を倍増させる計画を進めているところで、企業業績にインパクトがあるものから優先的にリリースすることになるという。

 AIは非常に強力なテクノロジーであり、提供企業にも利用企業にも大きな影響を及ぼす。SAPとしても責任あるAIを提供することを重視する。その開発では、UNESCOのAI倫理勧告を遵守しているとした。

WalkMeの買収、Jouleとのコンフリクトはないのか?

 SAPはSapphire 2024の期間中にWalkMeの買収計画を発表した。2日目のCustomer Keynoteの冒頭、スコット・ラッセル氏(SAP Chief Revenue Officer, Customer Success)は、買収計画の意図を「お客様のビジネスに価値を提供する優れたアプリケーションやプラットフォームを提供するだけに留まらず、その変革の過程にも情熱を注いでいる。WalkMeは、SAPとSAP以外のポートフォリオを横断し、デジタルアダプションジャーニーをサポートすることになる」と説明していた。

 また、トーマス・ザウアーエシッヒ氏(SAP Customer Services & Delivery)も、「WalkMeはお客様が継続的にビジネス変革を進めるための包括的なツールセットを提供することになる」と述べ、WalkMeは、顧客のビジネス変革を支援するSAP SignavioやSAP LeanIXを含むSAP Business Transformationポートフォリオを補完するものと位置付けていることを説明した。これはRISE with SAPで提供するソリューションの強化が、顧客のビジネス変革を促すことを意図したものであることに関係している。また、ザウアーエシッヒ氏は「WalkMeは、Jouleの一部として、新しいテクノロジーの採用とビジネス変革を支援することになる」と述べた。

強化を進めるRISE with SAPソリューション 出典:SAP [画像クリックで拡大]

 さらに、WalkMeが6月18日に発表した「WalkMeX」とJouleとの統合計画も明らかになった。WalkMeXは常時接続のAIアシスタントで、プロンプトの表示やアプリケーションの切り替えなしで、能動的なガイダンスをエンドユーザーに提供する。個別取材に対応してくれたウルフ・ブラックマン氏(Vice President of Artificial Intelligence Technology, the Head of Digital Assistant and AI Business Services)によれば、WalkMeの強みは、特定のアプリケーションに限定されることなく、エンドユーザーと実行中のタスクを理解し、次のステップを提案する文脈の理解力にある。たとえば、Jouleとの対話で、データ項目に入力の必要があるとわかったとする。どこに入力していいかがわからなくなっていると判断すると、WalkMeXはエンドユーザーが発注内容の登録をしようとしていると理解し、入力するべき画面を示すことができる。

 Jouleとの統合について、ブラックマン氏は「統合によるコンフリクトはまったくない。顧客のデジタルシステム全体を補強するものになるだろう」と明言した。そのイメージは、JouleとMicrosoft Copilot for Microsoft 365との統合計画で目指す姿に近い。2つが双方向に連携することで、ユーザーは両方を同時に使って仕事をこなすことができ、どちらのAIアシスタントを利用していても、両方を使っているのと同じ恩恵を得られるようにする。それがSAPの基本方針だ。

次のページ
Jouleのインテグレーションジャーニー

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
EnterpriseZine Press連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/19951 2024/07/02 09:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング