生成AIアシスタントJouleの最新事情
Jouleは、SAPのすべてのソリューションをカバーする包括的なデジタルアシスタントとして、SAP製品の新しいUXになろうとしている。「2024年末までに、Jouleは頻繁に実行されるタスクのうち80%を支援することになる」と、初日の基調講演に登壇したクリスチャン・クライン氏(SAP CEO)は展望を述べていた。
エンドユーザーがJouleを利用できる範囲が拡大するに伴い、裏側のトランザクション処理のやり方が変わる。販売管理で言えば、Jouleは注文内容の登録と変更管理のタスクを制御し、その後の請求手続きから現金回収完了までを支援するようになる。
さらにJouleは強力なアナリティクスエンジンにもなる。Jouleは広範なデータから企業のビジネス特性を理解し、業績向上に寄与するパターンを見つけることを得意としている。この能力を利用することで、企業はJouleを通してファイナンス、人事、サプライチェーン管理、CRMなどの各領域における戦略的意思決定の材料を、より容易に得られるようになる。
現在、SAPはJouleをSAPのクラウドアプリケーションでの採用を進めている。クライン氏はJouleとMicrosoft Copilot for Microsoft 365との双方向の連携計画を進めていることを明らかにした。この計画が実現すると、どちらのAIアシスタントを利用していても、シームレスにタスクを実行できるようになる。
図1のUXレイヤーの下にあるのがソリューションレイヤーである。クライン氏によれば、SAPのAIユースケースは事前トレーニング済みで、アプリケーションのワークフローに組み込まれており、すぐに使用できるという特徴がある。現在、50超のSAP Business AIユースケースを提供している。現在、2024年末を目処にその数を倍増させる計画を進めているところで、企業業績にインパクトがあるものから優先的にリリースすることになるという。
AIは非常に強力なテクノロジーであり、提供企業にも利用企業にも大きな影響を及ぼす。SAPとしても責任あるAIを提供することを重視する。その開発では、UNESCOのAI倫理勧告を遵守しているとした。
WalkMeの買収、Jouleとのコンフリクトはないのか?
SAPはSapphire 2024の期間中にWalkMeの買収計画を発表した。2日目のCustomer Keynoteの冒頭、スコット・ラッセル氏(SAP Chief Revenue Officer, Customer Success)は、買収計画の意図を「お客様のビジネスに価値を提供する優れたアプリケーションやプラットフォームを提供するだけに留まらず、その変革の過程にも情熱を注いでいる。WalkMeは、SAPとSAP以外のポートフォリオを横断し、デジタルアダプションジャーニーをサポートすることになる」と説明していた。
また、トーマス・ザウアーエシッヒ氏(SAP Customer Services & Delivery)も、「WalkMeはお客様が継続的にビジネス変革を進めるための包括的なツールセットを提供することになる」と述べ、WalkMeは、顧客のビジネス変革を支援するSAP SignavioやSAP LeanIXを含むSAP Business Transformationポートフォリオを補完するものと位置付けていることを説明した。これはRISE with SAPで提供するソリューションの強化が、顧客のビジネス変革を促すことを意図したものであることに関係している。また、ザウアーエシッヒ氏は「WalkMeは、Jouleの一部として、新しいテクノロジーの採用とビジネス変革を支援することになる」と述べた。
さらに、WalkMeが6月18日に発表した「WalkMe(X)」とJouleとの統合計画も明らかになった。WalkMe(X)は常時接続のAIアシスタントで、プロンプトの表示やアプリケーションの切り替えなしで、能動的なガイダンスをエンドユーザーに提供する。個別取材に対応してくれたウルフ・ブラックマン氏(Vice President of Artificial Intelligence Technology, the Head of Digital Assistant and AI Business Services)によれば、WalkMeの強みは、特定のアプリケーションに限定されることなく、エンドユーザーと実行中のタスクを理解し、次のステップを提案する文脈の理解力にある。たとえば、Jouleとの対話で、データ項目に入力の必要があるとわかったとする。どこに入力していいかがわからなくなっていると判断すると、WalkMe(X)はエンドユーザーが発注内容の登録をしようとしていると理解し、入力するべき画面を示すことができる。
Jouleとの統合について、ブラックマン氏は「統合によるコンフリクトはまったくない。顧客のデジタルシステム全体を補強するものになるだろう」と明言した。そのイメージは、JouleとMicrosoft Copilot for Microsoft 365との統合計画で目指す姿に近い。2つが双方向に連携することで、ユーザーは両方を同時に使って仕事をこなすことができ、どちらのAIアシスタントを利用していても、両方を使っているのと同じ恩恵を得られるようにする。それがSAPの基本方針だ。