自治体DXで先行するさいたま市、データ活用は「職員自らする」──“外部委託の限界”を感じ辿り着いた姿
「CIO Japan Summit」セッションレポート
「全国自治体DX推進度ランキング2023」(時事総合研究所)において、第1位となった埼玉県さいたま市。同市 都市戦略本部 情報統括監の小泉浩之氏は、「課題を認識する取り組みを現場主導で地道に積み重ねていくことが大切」と話す。市をあげて取り組む、さいたま市のDX推進とは一体どんなものなのか。本稿では5月14日~15日に行われた「CIO Japan Summit 2024」から、同市の講演をレポートする。
市長を筆頭にしたDX推進体制を構築
さいたま市が全庁をあげてDXに取り組むきっかけは、2020年新型コロナウイルスによるパンデミックだったという。「国の特別定額給付金の電子申請、庁内からは感染拡大防止のためにテレワークやテレビ会議を実施したいという声があがり、インフラなどの整備が急務になったことがきっかけとなりました」と小泉氏は当時を振り返る。

2020年11月、DXを推進するために市長をトップとする「さいたま市DX推進本部」を設置。市長や副市長、各局長らを中心とした本部会を筆頭に、情報統括監や関係部長が所属する幹事会で戦略立案などを行う。さらにその下には、具体的なDXを実践する5つのワーキンググループ(WG)があるといった構成だ。こうした組織を支える事務局は、デジタル改革推進部が担い、組織横断的な取り組みを行う。なお5つのWGのうち、「デジタル人材WG」は2024年に新設されたWGで、デジタル人材の確保や育成方針の検討などを行っている。

小泉氏はそれぞれのWGの取り組みを紹介した。「窓口デジタル化WG」では、市役所などの窓口での市民の負担軽減、さらに職員の業務効率化推進などを担当。小泉氏は「マイナンバーカードを読み取るだけで氏名、住所などのデータが自動的に入力され、カードをお持ちでない方には、職員が聞き取って代理入力する『書かない窓口』を実現するべく、業務改革を実施しています」と話す。
ただし、デジタルデバイスを使えない人も存在することから、行政として寄り添う施策も必要になる。それらを担当するのが「デジタルデバイドWG」だ。「スマートフォン等の操作が苦手な方に対し、基礎的な知識、スキルの底上げを図ることを目的に、高齢者向けのスマートフォン講座など実践的な活動を行っています」(小泉氏)。
「システム標準化WG」は、2025年度末までに対応が求められている自治体システム標準化に対応するため、 標準準拠システムへの移行に向けた検討と、移行後のシステムにおける市民サービスの維持と業務の円滑な遂行に向けた検討を行う。
「業務デジタル化WG」は、デジタル活用によりこれまでの行政サービスを確保し、より付加価値の高いサービス提供を目的に、デジタル技術を活用した職員の働き方改革、業務効率化の検討を担う。業務改革の象徴と言えるのがペーパーレス化であるという。
「民間に比べて紙文化が根強く残る自治体では、ペーパーレス化は大きな課題の1つです。まず、庁内の無線LAN環境を整備し、現在、庁内145ヵ所に無線LAN環境を整備しました。会議で紙の資料を配付せず、ノートパソコンを持ち込み、サーバーから資料を読み込んだ資料を使って会議することができるようになりました。
また、800の課に設置されたプリンタがどれくらいの枚数を印刷しているのか、把握できていませんでした。そこでどのプリンタが何枚くらい印刷しているのか情報を取得し、市職員が閲覧できる統計情報サイトに掲載。その結果、自分の課が他の課より印刷枚数が多いといった問題意識が生まれ、職員の意識改革につながっています。一方的に紙を減らすことを指示するのではなく、現場主導で地道に積み重ねていくことが大切だと考えます」(小泉氏)
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- この記事の著者
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三浦 優子(ミウラ ユウコ)
日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務。1990年、コンピュータ・ニュース社(現・BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。IT系Web媒体等で取材、執筆活動を行なっている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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