解決したかったのはデータの可視化
──Streamlitを2018年に共同創業していますね。どのような課題を感じ、解決に向けて創業されたのでしょうか。
シード資金を調達した2018年11月1日、Google Xで一緒だったメンバーと創業しました。2人目の娘が生まれた日なので正確に記憶しています。
当時、データエンジニアやデータサイエンティスト、機械学習のエンジニアなどの立場から技術スタックを見たときに「Jupyter Notebookでは、簡単に可視化できない」と感じていました。これはReactやFlaskでアプリを作るときでも同じです。また、データサイエンティストをはじめとしたデータチームは、フロントエンドのエンジニアではありません。
個人的な経験からしてもGoogle Xや他のスタートアップでさえ、アイデアから市場投入まで時間がかかっていると感じていました。顧客のログを見て分類し、構築して市場に提供する……ここに数ヶ月かかっているようでは遅すぎます。企業はデータから得られたインサイトと同様のスピードで動かなければなりません。
そうした背景から生まれたStreamlitは、現場のデータチームをエンパワーメントすることを目的としたPythonでWebアプリを作成できるフレームワークです。実際にデータを扱っているデータサイエンティストなどが使えるという点でブレークスルーできたと見ています。
今でこそスライダーをドラッグして変化を見れるような機能などで知られていますが、実は創業時にインタラクティブなウィジェットはありませんでした。スタートしたばかりの頃にユーザーの声から着想を得て生まれ、これがStreamlitの起爆剤となりました。
また、オープンソースとして提供してコミュニティの意見を聞くことで、データチームにはどのようなツールや技術が必要なのかを学んできました。つまり、Streamlitを動かしているのは“コミュニティの声”なのです。実際に今回のイベントでも日本企業と話をしており、常にどのような支援できるのかを考えて製品ロードマップを作っています。
──データチームに言及していましたが、ビジネスユーザーもターゲットにしているのでしょうか。
たしかに、創業時はデータを扱うエンジニアなどが必要としているツールを作ることを目指していました。しかしながら、現在はビジネスユーザーもStreamlitの潜在ユーザーになっている状況にあります。
実際に「データドリブン」というがバズワードとなっているように、企業全体でのデータ活用が求められています。私は現在データサイエンスチームを見ていますが、製品チームや顧客から「これがやりたい」「これはできるのか」といった質問が次々と寄せられます。このとき、簡単に使えないツールではフラストレーションが溜まりますよね。さらには、マーケティングなどビジネス部門も利用してくれるようなツールがあれば、エンジニアだけでなくアプリユーザーにとってもメリットが大きいはずです。
アプリを使う人の数は、データチームの10倍以上です。この人たちに向けて、これまでできないことが簡単にできるようになるアプリを作る──私はこのアプリを“マジカルアプリ”と呼んでいます。まさにプロダクトマネージャーや営業担当者が頭の中で描いているようなことを実現できるようなアプリです。自社事業について「どうしてこのような予測ができるのか」といった会話はもちろん、コラボレーションの起点となるでしょう。これを実現するためにもStreamlitが高速にイテレートできる点などで役立ち、たとえばミーティング中に「このデータがみたい」「地図上に表示するとどうなるか」といったことを簡単に具現化できるでしょう。
実際にビジネスユーザーがStreamlitでデータを表示しながらミーティングする企業が出てきており、他のツールだと数週間を要するところをその場で実現できています。