まず契約成立に必要なこと
この連載は、法的紛争を題材にしていますが、普段あまり法律の説明や解説などは行っていません。ただ今回は、一つだけ民法の条文を頭に入れておいたほうが、解説もわかりやすいかもしれませんので、以下の条文をご紹介しておきます。
民法第五百二十二条【契約の成立と方式】
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
契約は一方が「契約してください」と言い、相手方が「いいですよ」と言ったときに成立します。ITの開発契約で言えば、ベンダーが見積書や提案書を提示することが「申し込み」にあたり、これに対してユーザーがOKを出すことが承諾にあたると考えられます。
それだけを聞くと当たり前のことのようにも思えるのですが、実はITに関わる契約ではこの契約の成立を巡る紛争というのが意外と少なくありません。ベンダーの提示した見積・提案に対してユーザー側の担当者が「これで結構です」と言ったとします。ITベンダー側は、これを事実上の「承諾」であるとしていろいろと準備をしたり、開発に着手をしたが、実はユーザーのほうとしては、まだ社内稟議も残っており、「結構です」と言ったのは、「見積書としては問題ありません」という程度の意味で、契約の承諾などしていないと主張する。そんな子供の喧嘩のような紛争が、実は意外と多いのです。
契約が契約として成立するためには何が必要であるのか。これは非常に基本的なことではあるのですが、ユーザー・ベンダー双方がついついやってしまいがちなことでもありますので、注意喚起の意味で契約を巡る紛争の例をお話ししたいと思います。