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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

この見積書は無効? 印鑑の有無が億単位の訴訟の争点に── ITベンダーに起こった契約を巡る紛争の行方

 本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「この見積書は無効?印鑑の有無が億単位の訴訟の争点に」です。契約は一方が「契約してください」と言い、相手方が「いいですよ」と言ったときに成立しますが、実はITに関わる契約ではこの契約の成立を巡る紛争というのが意外と少なくありません。そこで今回は、契約を巡る紛争事例を題材に、契約が契約として成立するために必要な勘所を学びましょう。

まず契約成立に必要なこと

 この連載は、法的紛争を題材にしていますが、普段あまり法律の説明や解説などは行っていません。ただ今回は、一つだけ民法の条文を頭に入れておいたほうが、解説もわかりやすいかもしれませんので、以下の条文をご紹介しておきます。

民法第五百二十二条【契約の成立と方式】

契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

 契約は一方が「契約してください」と言い、相手方が「いいですよ」と言ったときに成立します。ITの開発契約で言えば、ベンダーが見積書や提案書を提示することが「申し込み」にあたり、これに対してユーザーがOKを出すことが承諾にあたると考えられます。

 それだけを聞くと当たり前のことのようにも思えるのですが、実はITに関わる契約ではこの契約の成立を巡る紛争というのが意外と少なくありません。ベンダーの提示した見積・提案に対してユーザー側の担当者が「これで結構です」と言ったとします。ITベンダー側は、これを事実上の「承諾」であるとしていろいろと準備をしたり、開発に着手をしたが、実はユーザーのほうとしては、まだ社内稟議も残っており、「結構です」と言ったのは、「見積書としては問題ありません」という程度の意味で、契約の承諾などしていないと主張する。そんな子供の喧嘩のような紛争が、実は意外と多いのです。

 契約が契約として成立するためには何が必要であるのか。これは非常に基本的なことではあるのですが、ユーザー・ベンダー双方がついついやってしまいがちなことでもありますので、注意喚起の意味で契約を巡る紛争の例をお話ししたいと思います。

次のページ
印鑑のない見積書では「契約の申込み」にならない?

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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