2023年9月20日、日本IBMは「IBM watsonx」に係わる記者説明会を開催した。
2023年5月にIBM watsonxが発表されていることを踏まえ、同社 常務執行役員 テクノロジー事業本部長 村田将輝氏は「オープンかつクラウドネイティブな技術を活用していき、『信頼できる学習データ』を利用していくことは企業利用において重要だ」と切り出すと、下図を示してAIに対する“4つの信念”を説明。watsonxの発表以降、ユーザーと議論を重ねていく中では、オンプレミス上でAIモデルを稼働させるニーズもグローバルを含めて多く聞いているという。
なお、IBM watsonxは「watsonx.ai」「watsonx.data」「watsonx.governance」という3つのコンポーネントで構成。Red Hat OpenShiftが基盤として利用されており、ハイブリッド環境にも対応していけるとする。
また、市場を俯瞰したとき、構築済みのAIサービスを製品に組み込んでいくアプローチをはじめ、構築済みのAIサービスに追加学習させたり、基盤モデルを利用して独自のAIサービスを構築したりと、いくつかの手法が見られる中でwatson.aiでは「スレート(Slate)モデル」「グラナイト(Granite)モデル」「サンドストーン(SandStone)モデル」という独自基盤モデルを利用できる他、「GPT-NeoX」などのオープンソース基盤モデルや「Llama 2-Chat」などの他社製基盤モデルの利用も可能だという。村田氏は「IBMの独自AI基盤モデルのGraniteにおいて、日本語版を2023年12月に先行リリースして2024年第1四半期には正式リリースする」と発表した。
Graniteではコンテンツ生成や翻訳といった“生成系タスク”をカバーしていく中で、チューニングの際にも大規模な環境を必要とせず、他社の大型モデルにと比べて効率的だと日本IBM テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリスト 田中孝氏は話す。
また、IBM独自基盤モデルはビジネス用途に特化しており「Graniteを構築する上で法務や財務といったデータをインターネット上から収集し、倫理基準に基づいて学習データの取捨選択を行っている。『HAPディテクター』により攻撃的な学習データを取り除いており、出力の質を担保するためにフィルタリングにも注力している点が特長だ」と田中氏。watsonx.governanceの2023年後半での提供開始に先立って技術プレビューの提供を開始予定だとするとダッシュボードイメージを提示。リスクに対するアクションについても提案できるようにしていく予定だと説明する。
今後は自然言語やコーディング以外の用途にも拡充していくとして、既に地理空間基盤モデルのオープンソース提供を発表するなど「特化したユースケースにおいて高い効果を発揮していく」と強調。無償評価プログラムを用いた共創も進めていくとしてIBMフェロー 兼 日本IBM 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 CTO 二上哲也氏にバトンを渡す。
二上氏は、IT部門において“IT変革”のためにもAIを利用してほしいとして、プロダクト開発ライフサイクルにおけるAI活用の例を提示。たとえば、「watson Code Assistant」と「Ansible Lightspeed」による基幹システム向けのコード生成、「Code Assistant for Z」によるメインフレーム上でのCOBOLリファクタリングの他、テスト自動化などシステム更改やモダナイゼーションにおいても利用できると話す。
また、同社では「AITOS(Automated IT Operation Service utilizing AI)」や「IBM BlueBuddy」などのIT運用に係わるサービスを提供。基幹システムのためのコード生成AIの活用に関しては、下図を示しながら日本語の仕様書からコード生成を行えるとする。また、IBM BlueBuddyでは、3Dモデルのデジタルヒューマンがチャットボットに代わり回答をくれるといい、インシデント発生時には概要を要約してくれたり、過去の対応実績から最適な担当者を推薦してくれたりするという。二上氏は「システム更改やモダナイゼーション、IT運用において従来より30%の生産性向上を目指していく」と述べる。
2023年5月のwatsonx発表時には具体的な方向性が提示できていなかった中、ユーザーとの議論を重ねていくことでパブリッククラウドやオンプレミス、エッジにおいて活用できる点に注力していくとあらためて触れると、村田氏は「企業の競争力をいかに高めていくのか、最適なAIモデルによる継続的な学習を進めていきたい。前挙した4つの信念に従って進めていく」と締めくくった。