日本市場は直販でなく、パートナーの力を借りて進めていく
前任の岡氏がIBMの米国本社に転籍するにともない、レッドハットの日本法人では新たな社長を探すことに。元々、候補者はIBMグループから選出すると決まっていたわけではなく、外部人材も含め適任者を探しており、社内や本社とも相談していく中で候補として挙がったのが三浦美穂氏だった。「通常の外部採用の方と同じように本社のインタビューを何回か受け、採用いただけました」と三浦氏は語る。
同氏は、大学卒業後に日本IBMに入社したプロパー社員。システムエンジニア職で採用され、メインフレームのデータベース・エンジニアとして15年程の経験を積む。大手通信企業や自動車メーカー、さらには日本以外のアジアパシフィック地域の銀行など、多様な企業の案件でデータベーススペシャリストとして活動した。
「自分自身はずっとシステムエンジニアでいたかったのですが、会社からのオファーもあり営業職をやることになりました」と三浦氏。以降、ソフトウェアの営業から始まり、マーケティングの仕事も経験する。電機電子産業の営業部門長、ソフトウェア製品、クラウドなどのビジネスも担当。その後はパートナー事業の責任者として従事する期間が長かったという。
2019年にはIBMがRed Hatを買収。当時からIBMはRed Hatのテクノロジーをミドルウェアやハードウェアに取り込んでおり、三浦氏はソフトウェアやテクノロジー担当の事業責任者として、定期的にRed Hatとコミュニケーションをとるように。「当時はIBMのパートナー、アライアンス企業の1つという感じでしたね」と振り返る。
三浦氏が前任の岡氏から引き継いだレッドハットの事業戦略は、基本的にはコアビジネスを大事にしつつ、クラウドにもシフトしていくというもの。それに加えて、大手企業のフットプリントをさらに拡大することだった。「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)が全国的に周知されている中では、OpenShiftやAnsibleなどの新たな製品について、顧客やパートナーにより広く価値を伝える機会を持ちたいと考えています。将来に向けてパートナー戦略を強化し、フットプリントを拡げたいです」と話す。
Linuxビジネスは継続して堅調に推移している一方、OpenShiftの成長率は高いものの拡大余地が大きいだけに、より成長できる可能性は高い。特に日本市場には、まだまだ成長の余地があるだろう。「さまざまなところでLinuxが使われていますが、OpenShiftやAnsibleの良さを十分に伝えられていません。そこを解消して市場の裾野を拡げたいと思っています」と述べる。
欧米など海外市場では、開発者が顧客社内にいるケースも多く、そういう企業では自社で新しい技術をアセスメントする眼を養っている。そのため、コンテナ化やCI/CDの価値が理解されやすく、Red Hatとしては顧客に直接コンタクトして市場を拡大するアプローチをとれるだろう。
しかし、日本はOpenShiftやコンテナの活用においては、欧米などから1、2年遅れていると言っても過言ではない。SIに開発を外注していることが多く、自社で率先してコンテナ化を進めるとの判断ができないのだ。そうした市場の特性を理解すれば、SIやISV、ディストリビュータなど「日本ではパートナーの力を借りなければならず、直販だけでは進められません」と三浦氏は言う。
パートナー戦略としては、まずRed Hatの技術の良さを理解してもらう。そのためにも学習機会を増やすための活動を昨年から強化。既にeラーニングの学習コンテンツを無償提供しており、パートナーも数多く受講している。こうした取り組みで「パートナーのエンジニアにRed Hatのファンを増やします。『Red Hatに係わる技術を持っていれば、今後も良い仕事ができる』と感じてもらいながら市場全体への浸透を図っていきます」とも話す。
それに加えてディストリビュータや大手パートナー、地場に強いパートナーの力を借りることで、これまでRed Hatの情報を届け切れていなかった地域も含めてカバレッジを強化する。また、大手パブリッククラウドとも協業し、クラウドベンダーのサービスとあわせて提供。地方であれば、地場でプライベートクラウドのサービスを展開しているようなベンダーもいるため、そうしたパートナーとの協業も深めていく。「パートナーと一緒にマーケティングを行い、プロモーションを強化していきます」と三浦氏は説明する。