ServiceNowのAIビジョン、「Put AI to Work(for People)」とは
今回のイベントのテーマは「Put AI to Work(for People)」。これには「人のためにAIを働かせる」という意味が込められている。2018年から、ServiceNowは、システムに合わせることなく、人を中心にサービス体験を再設計する「デジタルワークフロー」の提供を通して、DXに取り組む企業の支援に取り組んできた。業務領域に合わせたSaaSとして提供するワークフローも、元々の強みである「Technology Workflows」から、「Customer Workflows」「Employee Workflows」「Financial & Supply Chain Workflows」「Creator Workflows」「Industry Workflows」まで増えた。イベントのテーマの「for People」を「顧客のために」「従業員のために」「開発者のために」と、働く人たちの役割に置き換えて読み替えると、ServiceNowのAIに対するスタンスが見えてくる。
ServiceNowの顧客、パートナーが集まるコミュニティは着実に成長している。「世界100カ国、8,000社超の企業、そこで働く1億1500万人の人たちが創り出す経済価値は20兆ドルを越える。昨年だけでもServiceNowは232億件のワークフローを実行した。ビジネスの自動化で、大企業はDXを進めている。生成AIが登場したことで、世界中のあらゆる業種業態、あらゆる企業、あらゆるビジネスプロセス、あらゆるワークフローが生成AIで再設計される。IT業界のルネッサンスが起こるだろう」とマクダーモット氏は述べ、生成AIのServiceNowのビジネスにおける重要性を強調した。
なぜ企業はビジネスプロセスやワークフローの再設計に取り組むべきなのか。その理由は、プロセスが壊れていて、体験を損なうひどい状態にあるためだという。働く人たちは、1日あたり平均で13種類のアプリケーション間を行ったり来たりしていて、その生産性の30%が損なわれてしまう。この課題を解決するのが、エンドユーザーが1つの画面からサービスにアクセスできる「1枚のエクスペリエンスレイヤー」になる。このレイヤーをServiceNowでは「プラットフォームのプラットフォーム」と呼んでいる。ServiceNowの生成AI機能は、エクスペリエンスレイヤーと業務システムのオーケストレーションを行うワークフロー自動化レイヤーとの間のインテリジェンスレイヤーに集約されており、このアーキテクチャーが企業のビジネス変革を後押ししてくれることになる。
マクダーモット氏が語る「生成AIによる10億時間の生産性向上」
マクダーモット氏が過去12カ月間に200人以上のCEOと個別に会って実感したところによれば、CEO全員が自社のAI活用の現状に大きな関心を寄せている。なぜならば、今日の企業で働く人たちが負担に感じている仕事の7割が、AIで排除できるからだ。多くのCEOたちも、AIがビジネスに影響を及ぼすことをよくわかっている。IDCは、今後3年間における世界経済にAIが及ぼす影響は5兆ドルに上ると予測している。しかし、これはマクロ市場の見方だ。ServiceNowを導入しているような企業で働く人々の関心事は、自分たちの仕事がどう変わるかの方にあるはずだ。
イベント前日のプレス向けブリーフィングの場で、「ビジネス変革のための生成AIを搭載したServiceNowのユースケースを調べると、10億時間の生産性を実現する余地があるとわかった。働く人たちの目の前には、生産的で豊かなビジネス活動に従事できるポテンシャルがある。世界中の企業のあらゆるワークフローに生成AIが組み込まれ、各自の仕事のスピードアップが実現することで、生産性向上が実現される」とマクダーモット氏は語り、ServiceNowのTAMを2,750億ドル相当と見積もった。この金額はCRM市場の規模に匹敵するという。
企業がビジネス変革に取り組むことには、ServiceNowのビジネス成長以上の意義がある。たとえば、保険会社であれば、契約者からの保険金請求を管理するプロセスが変わるだろう。製薬会社であれば、新薬が市場に出回るまでのボトルネックである臨床試験プロセスが短縮することもありうる。ビジネスプロセスを変える。それも生成AIを活用して、既存のプロセスを再定義することで、保険契約者や難病に悩む人たちなど、社会全体をより良いものにすることに貢献できる。
しかし、このビジネス変革の邪魔をする存在がある。それは企業内システムの複雑性だ。クラウドファーストが当たり前になって以降、企業はエンタープライズSaaSの導入を進めてきた。国内でもERPやCRMの領域ではSaaSを第一選択肢とする企業が中心だ。とはいえ、SaaSの導入では、スモールスタートが好まれることから、部門ごとに異なる環境で仕事をしている企業は少なくない。また、オンプレミスのシステムが残っていること、国内ではスクラッチ開発のシステムが多く残っていることが、ビジネス変革の阻害要因になる。マクダーモット氏は、ServiceNowがこのシステムの複雑性を解消し、ビジネスの俊敏性を高める「ビジネス変革のためのAIプラットフォーム」になると述べた。