「楽しい、やりたい」をビジネスにつなげる
先述したイベントを企画するにあたっては、SAPという企業の方向性も意識している。
たとえばハロウィーンイベントでは、毎年アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)とコラボし、同社から2人の役員が参加。昨年は、グーグル・クラウド・ジャパンを招き、社長とコラボするという催しも実施した。さらに今年は、日本マイクロソフトの役員が参加するコラボイベントも初めて開催している。
こうした企画は、“SAPのクラウド化”を意識してのことだ。「クラウドを推進するといっても、SAPのコンサルタントとしてはイメージが湧きにくい。各社の技術とビジネスをどのようにコラボレーションするのか、それを学べる機会にしたかった」と川邉さん。
この思いが顕著に表れているのがBOOST軸のイベントだろう。たとえば、SAPが押し出している「SAP Business Technology Platform(BTP)」は、まだまだ新しく、社員にとっても扱いが難しい。裏を返せば、「BTPが理解できれば武器になる」(川邉さん)。“若手と親和性が高い”という思いからも、BTPについて学び・交流できるイベントを11回開催している。前半は概要を学び、後半は活用編として実装までをカバーする企画設計だ。累計の参加者は1,204人。若手だけでなく、シニア層も参加したという。
こうした工夫は、ビジネスにも効果として現れている。SAP SuccessFactorsを担当する木村さんは2023年末、NGBで若手人事担当者向けのプログラムを作成。人事担当者自身が自分のキャリアについて考え、理想のキャリアを自社で実現するために人事制度を見直すというもので、最終的に自社の人事制度を変えていくために提言をすることがゴールだ。この企画では、SAPソリューションの話はしていないが、それを支える仕組みとしてSuccessFactorsのバリューアドバイザーなどを専門家として呼んだことから、「もう少し詳しく聞きたい」と営業につながったという。
こうした活動が実を結び、JSUGや社内でもNGBの活動に認知・理解が得られ始めている。「将来のSAPビジネスを作るのも変えるのも若手、こうした観点で若手を巻き込むことに課題を感じていたようです。だからこそ、我々の活動を支援してくださっています 」と木村さん。
「仕事としてではなく、楽しい、やりたいがベースにあり活動している」とも話す。とはいえ、業務時間外の活動に時間を割けないときもある。「本業が第一というルールを作っているので、仕事が忙しいときは抜けていい。一方、SAP所属のメンバーは“本業に活かす”というスタイルに変わってきています」と川邉さんは述べる。
「若手って意外とやるじゃん」と思わせたい
NGBの立ち上げを振り返り、「失敗もあったが、学びながら改善していく姿勢で続けてきました」と木村さん。
根底にあるのは、「自分たちが変えていく」という姿勢のようだ。ドイツ留学経験のある小泉さんは、諸外国では政治経済の分野でも若手が活躍していることを実感してきた。実際、ドイツに本社を置くSAPのCEOも40代だ。「日本で若いリーダーは出ないと諦めてしまうのは良くありません。能力がある人は認められるべきだし、社会を変えていくことが必要だと痛感しています」と小泉さん、「“若手って意外とやるじゃん”と思ってもらうことができたらいいなと思っています」と続けた。
木村さんも同意しながら、「今のつながりからは、上層部には届きにくい情報も得られます。そんな声を拾っていくことが、将来的に日本企業や社会を良くするための“小さな種”になると思っています」と話す。そんな木村さんは、影響力のある若手を集めた“ZX図鑑”を作りたいとの思いも明かしてくれた。
「不安定な時代で“お先真っ暗”みたいな雰囲気は、たしかに感じます。でも、若手の中に、熱い思いをもっている人、変えたいと思っている人、ビジョンのある人はたくさんいます」と川邉さん。
「一人ができることは自分の領域を変えること。そんな“一人”が増えていくことで目の前のチーム、会社が変わっていき、大きな変革につながり、夢を実現できる。そのような活動の輪を作っていきたいです」(川邉さん)