AI活用の準備態勢は後退──Ciscoが2本立ての「AIデータセンター」ソリューションで切り込む
「Cisco Live 2024 Melbourne」現地レポート
AIの時代に入りつつある中、Ciscoの調査によると企業における“AI活用の準備度”が下がっているという。Gartnerも先に、ハイプサイクルにおいて生成AIが幻滅期に入るという予想を出している。ここにおける問題の一つが「AIインフラの準備」にあるとみるのは、Cisco APJC クラウド&AIインフラ担当マネージングディレクターのSimon Miceli氏だ。同社が11月11日から3日間にわたり、オーストラリアで開催した年次イベント「Cisco Live !」で、Miceli氏に話を聞いた。
AI需要は喚起されるも環境整備が追いつかず ROIも不十分か
参考:「Gartner、『日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年』を発表」(2024年8月7日、ガートナージャパン)
──イベントにあわせて『Cisco AI Readiness Index』[1]のアジア太平洋・日本・中国版を発表されています。調査では、「AIを使うテクノロジーを実装して活用する準備ができている」と回答した企業は15%、前回の17%から減少する結果となりました。こうした調査結果をどう見ていますか。

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この調査は、我々の顧客が「AIテクノロジーを採用する準備ができているのか」を知るための貴重なバロメーターです。今回、準備ができているという回答比率は下がりました。この結果だけを一見すると驚くことでしょう。
しかし、興味深いことに緊急度は上昇しています。98%の企業が「AI戦略を実装するという緊急度が高まった」と回答しているのです。
つまり、市場に需要があるものの準備ができていない、と読むことができます。同時にCiscoでは、容易にAIを採用できるよう支援を加速させていく必要があるとも考えています。

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私が思うに、こうした問題は“AIに対応する”データセンターという、基盤整備にあるでしょう。つまり、課題は「インフラ」にあります。
では、なぜインフラの準備が問題になるのか。その理由はいくつか考えられます。これは事実というより意見ですが、ここ数年にわたってハイパースケーラー、つまりパブリッククラウドへの移行を目にしてきました。これによりIT業界では、オンプレミス環境のインフラに関するスキルが一部失われたと考えています。ハイパースケーラーへの移行を進めることを優先させたために、オンプレミスのインフラモダン化の優先順位は下がりました。
一方、AIに移行するにつれて、その重要性は高まっています。なぜならAIは本質的に分散型で実行されるため、オンプレミスでの運用が必要だからです。業界はこのニーズに追いつく必要があります。オンプレミス環境でのインフラのスキル、インフラ事態も再構築する必要があるのです。
──AIの投資から成果を生んでいる企業は、まだ少ないようです。
その指摘は正しいと思います。重要なことは、顧客がAIの価値を見出し、実感し、成果を生み出すことです。
さきほど触れた調査結果は、ガートナーのハイプサイクル通りにAIが成熟期に向かっているとも言えるでしょう。すべての新しいテクノロジーが幻滅期へと向かっていきますが、その理由は「投資に対するリターンが期待に見合っていない」と感じるからです。つまり、企業はAIへの投資に対する現状のリターンに満足していないと言えます。
しかし、悲観することはありません。これは非常に自然なサイクルだからです。この谷を抜けるとことで“生産性のゾーン”に入り、そこで魔法が起きるでしょう。AIは間違いなくそこに向かっています。
そして「AIの実用性」は、業界にフォーカスして固有のユースケースを見出し、価値を追求し続けることで実現できるとCiscoは確信しています。価値という観点では、AIはビジネスだけでなく人類にとっても、これまでで最も価値のあるシフトになると思います。
[1] 「AI Readiness Index(AI成熟度指標)」:Ciscoの年次調査。組織のAI対応度を戦略、インフラ、データ、ガバナンス、人材、文化の6つから測定し、先駆者 (Pacesetters)、追随者(Chasers)、フォロワー(Followers)、後発者(Laggards)の4つに分類する
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末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)
フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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