
2025年1月、米国で第二次トランプ政権が発足した。この「トランプ2.0」が企業活動や産業界にどのような影響をもたらすのか、日本でも注目が集まっている。EYストラテジー・アンド・コンサルティングの小林暢子氏(EY Asia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダー)と、Kyle P. Lawless氏(ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン ディレクター)に、短期・長期それぞれの目線で考えられる影響と、日本企業に推奨する対応策を尋ねた(取材は2025年2月13日に実施)。
加速するグローバルの“分断” 日本企業への影響は?
──第二次トランプ政権の政策が、日本企業のグローバル展開に与える影響は大きいかと思います。まずは短期的に見て、どういった懸念があるでしょうか。
小林: 予想以上に情勢変化のスピードが速く、2025年は地政学的にも重要な変節点となることが予想されます。バイデン政権時には、いわゆる「西側」の密な連携が当たり前の地盤としてありました。しかし、第二次トランプ政権が発足してから、米国自体がこの連合から離れつつあります。その結果、EU、日本、オーストラリアなどの国々が「はしごを外された」ような感覚を抱き、国連やWTO、パリ協定といった多国間協力の弱体化にも拍車がかかっています。
日本企業に影響する短期的な課題としては、主に3つ挙げられます。1つ目はやはり関税で、企業から最も多く問い合わせを受けているトピックです。2つ目はM&Aの問題です。USスチールと日本製鉄の一件に見られるように、外国資本による米国内企業の買収が政治的に反対されるケースが増えてきています。そして3つ目は、グローバル経済の軟調化です。関税の影響で、インフレの懸念や中国経済の減速がさらに進んだ場合、多くの国に影響が波及するでしょう。為替については日銀の利上げもあり、ある程度の円高が進むことが予想されます。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY Asia-Pacific ストラテジー エグゼキューション リーダー
小林暢子氏
──長期的な目線で考えなければいけないことは何でしょうか。
小林:根本的な地域グローバルポートフォリオの見直しが必要です。日本国内はある程度成熟した市場であるため、さらなる成長を求める日本企業はどこか海外の市場を探す必要がありますし、グローバル化の中でその動きが長年続いていました。しかし、世界の分断化が進む中では、経済合理性だけでなく地政学的観点も重要になります。製造拠点や調達先の検討についても、これまで以上に慎重にならなければいけません。
グローバルオペレーションについては、リーダーシップやITインフラ、人事インフラなど、経営基盤の構築方法が課題となるでしょう。これまでは規模の経済を活かした統一的な経営基盤が主流でしたが、今後は地域ごとの対応がより重要になっていくことが予想されます。ただし、関税プランニングや企業としての姿勢は、全社で統一しなければなりません。
<次の質問>
これまで以上に、企業のインテリジェンス収集能力が試される時代になるのではと感じます。日本企業がこの能力を強化するためには何をしたらよいでしょうか。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
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