Right Workload/Right Place/Right Paceに基づく戦略を策定
上述のようなハイブリッドITに関する課題を解決し、あるべきモダナイゼーションを実現していくためには、どんな取り組みが求められるのだろうか。
「モダナイゼーションを推進していく上では、システムの運用改善によって実現できるものと、インフラやアプリケーションを刷新しなければ実現できないものの2つの側面からの検討が必要です。さらに運用についても、自動化や可視化の仕組みによって短期的に実現を目指すものと、運用プロセスや体制を抜本的に変革していく中長期的な取り組みに分かれます。こうした多角的な観点に基づいて、計画的かつ段階的なアプローチを展開することが重要です」(條々氏)
この考え方に基づいてキンドリルが提唱しているのが、「Right Workload/Right Place/Right Pace」というキーワードである。要するに「適切なワークロードを、適切なプラットフォームに、適切なタイミングで移行する」ことを目指す。
「運用に求められる特性は企業ごとやシステムごとに異なります。利用形態だけでなく、法規制や業界ガイドライン、社内ルールなどの観点からも、当該システムのプラットフォームがクラウド向きなのか、そうでないのかを見極めておく必要があります。また、クラウドに移行するにしても、どのシステムから順に行っていくのか優先度を決めておかなければなりません」(條々氏)
たとえばメインフレームの移行に際して大きな困難が予想される場合、まずはフロント部分のWebアプリケーションのみを移行してオンプレミスと連携させるといった方針を取る。逆にメインフレームそのものの拡張性に限界を感じており、最新技術を取り入れたビジネス活用ができるようにしたいのであれば、クラウドネイティブなシステムへの再構築を目指すことになるだろう。
このように企業ごとの経営課題に沿った形でRight Workload/Right Place/Right Paceの方針を固めた上で、モダナイゼーションに臨まなければならない。
「Run and Transform」を導き出したキンドリル自身の実体験
具体的にどうやって企業ごとに最適なモダナイゼーション戦略を立案していくのか。そこに向けてキンドリルは「Run and Transform」という方法論を提示している。
まずは「現状の把握と課題の整理(アセスメント/課題の可視化)」を行い、次に「目的の明確化、戦略策定(ビジネス目標との連携)」を行う。その上でモダナイゼーションを図るシステムの「デザインと構想」を描き、「段階的な実装(標準化や自動化の適用)」を行う。さらに移行が完了した後も「継続的な改善(可観測性の向上とそれに基づいた改善)」を繰り返す。この一連のプロセスをシステムを稼働させながら実現していくのがRun and Transformである。
キンドリルがこの方法論を導き出すにいたった背景にあるのは、自らが全面的なシステム移行を成し遂げてきた「カスタマーゼロ」と呼ぶ自社の事例である。
2021年にIBMから独立したキンドリルは、分社化に際してIBMとの間で「移行期間中のサービス提供に関する契約(TSA)」を締結したが、すべてのプラットフォームとアプリケーションの使用を終了する期限が2023年11月と定められた。
通常であれば安全策をとって、これまで使ってきたものとほぼ同じインフラやシステムを導入するところだろう。しかしキンドリルは、あえてその道を選ばなかった。現行のシステムでは、「約9万人のスタートアップ」を自称する最新の組織のあり方に対応できないと考えたからだ。そこで「データ中心」「プラットフォームファースト」「クラウドベース」「自動化主導」「ゼロトラスト」を軸とするプリンシプル(原則)を掲げ、より無駄のない、モダンで安全なIT環境に切り替えることを目指したのである。
非常に大きなチャレンジではあったが、結果としてわずか2年間という短期間の中でレガシーシステムのモダナイゼーションを成し遂げることができた。
具体的にはIBM時代に1,800本以上あったオンプレミスのアプリケーションは360本以下となり、さらに現在では300本以下にまで削減されている。同様に合計435本あった人事・購買・請求発注関連のアプリケーションをSAPとWorkdayの2つのプラットフォームに統合、65本以上あったコラボレーションアプリケーションを1つのMicrosoft 365プラットフォームに統合、68あったデータウェアハウスを1つのデータプラットフォームに集約、17あったID管理システムを1つに統合するといった成果を上げている。
「散在していたシステムの徹底したシンプル化と並行し、社内カルチャーの変革および社員全員のマインドチェンジに取り組んできたのも大きなポイントです。Run and Transformに基づくモダナイゼーションを推進しようとするお客様に対して、私たちはこの実体験を通じて培ってきたノウハウと知見をあわせて提供します」(條々氏)