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2025年春号(EnterpriseZine Press 2025 Spring)特集「デジタル変革に待ったなし、地銀の生存競争──2025年の崖を回避するためのトリガーは」

EnterpriseZine Press

待ったなしの中堅中小DXを救う強力な処方箋:地域中核企業が主治医を担う「ネットワーク型支援」の可能性

経済産業省も提唱する新たなDX支援アプローチの“その先”を考える

「DX人材の空白」を埋める救世主となるのは?

 人材不足が深刻化する中堅・中小企業の現状について、宮村氏は「大企業はDX人材を比較的集めやすいことはもちろん、DX支援を担う大手SIerやコンサルティング会社などの外部支援も受けられますが、中堅・中小企業となるとそうはいきません」と指摘する。

 もちろん部門や業務ごとなど、部分的なデジタル化なら、中堅・中小企業向けのSaaSプロダクトの登場によってある程度は進んできた。しかし、変革の先のビジョンを明らかにし、その実現に向けて部門や業務もしくはSaaS同士を連携させようとすると、全体最適の絵を描いて取り組みを牽引する人材が必要だ。この全体最適にこそDXの真価があるにもかかわらず、中堅・中小企業はそうした職能を持つ人材にリーチしづらい状況にある。宮村氏は、こうした状況を「DX人材の空白」と表現する。

 この空白を埋めるための有効な手段として、宮村氏は“地域の伴走役を担う支援機関によるDX支援”アプローチを提唱する。これは、経済産業省が2024年3月に発表した「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ(以下、DX支援ガイダンス)」でも紹介されており、宮村氏もこの策定に携わっている。

 DX支援ガイダンスには、中堅・中小企業のDX推進を伴走支援するための指針がまとめられており、中堅・中小企業におけるDXの現状、DX支援の考え方・方法論、その基本的なアプローチと浸透に向けた考え方などが紹介されている。

 とはいえ、これは「あくまでガイダンスするまで」だとし、その先を見据えた具体的な支援の在り方として、地域を包括的に支援する企業とそれを中核としたネットワーク型の「DX支援プラットフォーム」の必要性を強調した。

 日本のIT市場は、大企業が中堅・中小企業に業務を委託するような「ヒエラルキー構造」となっている。これを、関連企業やステークホルダーと連携し、外部の専門家や技術者を活用する柔軟な「ネットワーク構造」に変えていくことで、人的リソースやシステムなどを共有する、“コストを抑えた”DXを推進できるという。このネットワーク構造をもったDX支援プラットフォームを構築するためには、中堅・中小企業が安心してDXの推進を依頼できる“主治医的な存在”が必要だ。そして、そこにつながる専門家のネットワークがあらかじめ用意されていることが望ましい。

地銀と中堅・中小企業は“運命共同体”

 主治医的な役割を担う存在として宮村氏が特に可能性を感じているのが、地方銀行をはじめとする地域に根差した金融機関だという。地域のメインバンクとして地方企業の融資元となっている地方銀行は、融資先がDXへの投資で企業価値を上げられれば、銀行自体のインセンティブにもつながる。中堅・中小企業とは地域経済を担う仲間であり、ある意味“運命共同体”だ。

 宮村氏は、地方銀行がDX支援に伴走するメリットについて「地方銀行の人脈を活かして、SaaSなどのソリューションベンダーや中小企業診断士、ITストラテジスト、ITコーディネーターなどのコンサルタント、SIerや個人のIT/DXの専門家など、既存のリソースをネットワーク化し、必要に応じてチームを組むスタイルをとれば、柔軟な対応が可能になります。普段からその地域の中堅・中小企業とコミュニケーションを取っている金融機関からの提案は受け入れられやすく、地域ごとに横展開が可能なことも大きな利点です」と説明する。

 宮村氏自身も、地方の中堅・中小企業のDX推進に携わる中で、地方銀行の橋渡しによってスムーズな進行がかなった経験が多々あるという。そのチームによる知見やノウハウ、ベストプラクティスは、先に紹介したDX支援ガイダンスにも存分に盛り込まれている。

 しかし、「こうしたDX支援プラットフォームを、一時的ではない定常的なビジネスとして実現させることは、決して簡単ではありません」と宮村氏。だからこそ、中堅・中小企業は、企業に共通する業務領域であるバックオフィス業務のデジタル化からはじめ、段階的にデジタル化された業務から(DX支援プラットフォームを用いた)BPOにつなげていくことを検討すべきだという。つまり、各社で共通する業務領域からデジタル化を進め、アウトソースできる仕組みを作るというわけだ。

 こうしたプラットフォームの運用が実現すれば、都市部の大企業をターゲットとしていた地方SIerなどが地元に目を向けるきっかけとなり、地域貢献のモチベーションをもった若年層の採用などに好影響を及ぼすことが期待される。また、地方銀行にデータが収集・蓄積されれば、将来のキャッシュフローを想定したブリッジローン融資といった金融サービスを新規展開するための材料になる可能性もあるだろう。

「岐阜モデル」にみる地域DX成功の秘訣

 DX支援プラットフォームを各地域に立ち上げ、そして浸透させていくために、まずは成功事例の共有が必要だと宮村氏は話す。そのための取り組みとして、中堅・中小企業におけるDXの優良事例を「DXセレクション」に選出し、成功の秘訣を広く共有するといった活動も行われているという。

 成功事例の一例として宮村氏が挙げるのが、「岐阜モデル」と呼ばれる電子インボイス対応システムだ。岐阜県が、地域非営利団体である岐阜県DX推進コンソーシアムに推進役を依頼し、県内の金融機関やシステム会社などの協力のもと、電子インボイス対応に合わせて受発注や振込、消込処理までをオンラインで完了できる仕組みを開発した。このシステムを利用することで、税制上の優遇が受けられるといった企業側のメリットもあるという。

 「個別の成功事例は各地にあるので、それらのノウハウや知見を他の地域に共有できれば、横展開もスムーズにかなうでしょう。同じ金融機関同士でも、競合するようなエリアでなければノウハウの共有に協力的であることも頼もしいです」(宮村氏)

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伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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