巨大・イオングループの30もの業務アプリを順次リプレイスへ 新体制に移行し「能動的なIT部門」目指す
第34回:イオンスマートテクノロジー 専門システム運用ユニット シニアマネージャー 内藤由美さん
調剤薬局の事務員からの転身 現場を知っていることが強みに
酒井:内藤さんは、情シスとしては異色すぎる経歴の持ち主です。
内藤:私のキャリアは、調剤薬局の窓口で患者さんをサポートする事務員から始まりました。もともとは病院の受付事務に憧れていたんです。患者さんに寄り添い、丁寧に対応する姿が素敵だなと。
その後、おそらく店舗のオペレーションに明るいという点を買われ、本部のシステム部に異動になりました。北海道から九州まで全国の店舗と関わるようになったんです。
酒井:全く異なる世界への転身。患者さんに寄り添うスタイルから、今度はシステムユーザーへの寄り添い方という、また違った関係性やノウハウが求められたのではないですか。
内藤:そうなんです。患者さんや薬剤師と日々関わっていたのが、全国の店舗従業員からの問い合わせを受けたり、ベンダーさんと関わるようになり、ガラッと変わりました。当然システムに関しては完全に初心者です。「システムが分からない人は電話に出ないでください」と言われて、泣きながら帰ることもありました。若かったですね(笑)
その後、27歳で初めて係長になり、調剤システムのヘルプデスクや全国のユーザーを飛び回る日々を過ごすことに。幼少期、父が転勤族で転校が多く、人との距離感を縮めるのに慣れていたのが役立ちました。
酒井:すぐに仲良くなれる感じは、今日の取材でも伝わっています(笑)。システムに関する知識やノウハウは、どうやってキャッチアップしていったのですか?

内藤:最初は社内やベンダーの皆さんの会話が宇宙語に聞こえるほど何も分からないような状態。一方で、私の強みは、店舗で実際にどのように運用されているのか分かっていることだと気づかされる瞬間も多々ありました。システムの中身は分からなくても、使う側の気持ちが痛いくらい分かるからこそ、システム設計や機能追加に活かせることがある。そこで私は「現場とITの橋渡し役」「通訳」としての役割を担うことに決めました。
今でもシステムに関しては部下の方が詳しいですから、私たちは「持ちつ持たれつの精神」で仕事をしています。私はコミュニケーション力や人との距離感の取り方、店舗運用の知識を提供し、システムの専門知識は彼らに頼る。「私がみんなのレベルまで追いつくのは難しい。だからシステム面はみんなの力を借りたい」と正直に伝え、互いの強みを活かし合うWin-Winの関係を築いています。
作業者ではなく「アドバイザー」に “提案できる”IT部門への道
酒井:ともすると受け身になりがちなIT部門を提案型に変えていくために具体的に実行していることはありますか?
内藤:実は、私が部長になって最初に課題だと感じたのは、事業会社からのリクエストをただ言われた通りに実行するという受け身の姿勢でした。でも本来、IT部門はITシステムのプロですから、単なる「作業者」ではなく「アドバイザー」であるべきだと思うんです。たとえば「この機能を追加すれば、さらに業務効率が上がります」といった提案ができてこそ価値があります。そうすれば、事業会社はハッピー、我々もありがとうと言われてハッピー、みんなで幸せになろうってことです。
このマインドチェンジを進めるため、部内で継続的に「相手視点」「視座を高める」「視野を広げる」といったテーマで何度もディスカッションを行っています。過去には「余計なことしなくていい」と言われ、提案すること自体が「悪」だと思い込んでいるメンバーもいました。
そこで私がもう一つ徹底しているのが、心理的安全性の確保です。「正解は一つじゃない」「何でも言って! 言うのはタダじゃん」みたいな。
それから、以前は質問されると即座に答えやアドバイスをしていましたが、今は意図的に質問で返すことを増やしています。答えを知っていてもあえて「どうしてそう思うの?」と聞き返す。メンバーに考える力をつけてもらい、自発的に動ける人材に成長してほしいからです。かなり手応えを感じています。最近では「内藤さんならこう質問するだろうな」と先回りして考えてくるメンバーも増えてきました。
私自身も率直さを大切にするようになりました。兼務で時間がないことを隠さず伝え、「細かいところは皆さんのほうが詳しいから任せたい。ただし、何かあったときに私が知らないと皆さんのカバーができないから、ポイントだけは押さえさせて」と伝えています。これがかえってメンバーの自主性を高めているようです。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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