AI導入でかえって業務を増やしていないか? 成功企業と失敗企業の差は「プロセスデザイン」にあり
単なる工数削減はもう古い、タスク代替に終わらないAI活用のポイントとは
「業務プロセスの見直し」ではなく、工数を“ゼロにする”方策を
現場の負担を最小限に抑えつつ、AIを最大限に活用していくためには、何が必要でしょうか。最も大切なことは、一部のタスクを切り取って代替するのではなく、業務プロセス全体を見直して効率化するという「ビジネスプロセスデザイン」の視点です。
そして筆者は、ここから一歩踏み込んで業務プロセス自体をなくす「ゼロ化」を重視しています。部分的な省力化によって、一連の業務プロセスの工数を“減らす”ことが従来のAI活用の姿だったとすれば、一連の業務プロセスをすべて代替させ、工数を“ゼロにする”ことが「ゼロ化」の狙いです。

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A社という「営業の効率化」を目指し、AIを活用する企業を例に挙げて考えてみましょう。これまでの部分的な省力化を目指したAI活用では、商談の議事録作成をAIに代替させることで、1商談あたり10分の議事録作成時間を1ヵ月で15回(6人分)、つまり1ヵ月あたり900分の工数削減の効果を上げられるでしょう。
一方、ゼロ化を目指してAIを適用した場合はどうでしょうか。まずはAIで商談の議事録を作成するための全社的なオペレーションを設定した上で、SFA(営業支援システム)への入力作業を自動化し、各プロセスがシームレスにつながるような仕組みを整えます。この時点で既に削減工数は、単に議事録作成をAIに代替させたときの倍にあたる1,800分を見込めます。その後、SFAのレポーティング作業の自動化にも取り組むことで、工数をゼロに近づけていきます。
つまり単にAIを部分適用するのではなく、「人の介在するポイントを限りなくゼロに近づける」という視点を持てるか否かで、AI導入の効果は大きく変わってくるのです。また、ゼロ化の視点を持つことによって定量的な成果だけでなく、定性的な成果を上げた事例もあります。
B社では、商談の録画データを活用し、議事録の作成と営業解析の自動化に着手。これまで商談の同席者が感覚的かつ主観的に営業人材を評価していましたが、自動化後には論理的かつ客観的に評価できるようになり、暗黙知化していたベストプラクティスを形式知化できました。このとき単に議事録作成をAIに代替させるという視点ではなく、ゼロ化の考え方をベースとして「営業プロセスへのAIの適用」という視点で捉えることで、プロセス全体にわたり業務効率化を実現できたのです。
従来の単なる「AIを使ったタスク遂行」と、ゼロ化が目指す「AIを用いた業務プロセスの構築」には大きな違いがあるのです。なお、前述したようなゼロ化の考え方には、下図のような4つの要素が必要となります。

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ゼロ化の実践においては、まずAIを活用して業務プロセス全体のゴールを明確にする、「目的設定」をしなくてはなりません。それに基づいてITインフラやセキュリティ対策、UI/UXなどの基盤を整える「環境構築」に取り組んでいきます。そして先述したように業務プロセス全体を見直し、目的に沿った“真に必要な業務”を見極めることが肝要です。ここで初めて、業務プロセスにAIを組み込んでいく「業務適用」に着手しましょう。
加えて、最後に忘れてはいけないのが「人材育成」です。AIはあくまでもツールであり、業務遂行者(≒現場担当者)のスペックを凌駕する存在ではありません。言い換えれば、AIは単独で業務を効率化するのではなく、業務遂行者のノウハウやナレッジとかけ合わせることで、初めて価値を生み出せます。だからこそ、誰よりも業務を知っている現場社員自らがAIリテラシーを高め、AIを活用することが大切なのです。AIに詳しい外部の専門家ですら、現場社員の代わりを務めることはできません。
とはいえ、すべてを自社だけで完結することに難しさがあることも事実でしょう。外部の専門家を上手に活用することで、AIを最大限活用していくためのノウハウも存在します。そこで次回は、外部の専門家と社員の役割分担、外部の専門家を最大限に活用するための方法について解説していきます。
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- この記事の著者
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小坂 駿人(コサカ ハヤト)
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
ビジネストランスフォーメーション事業本部
データコンサルティンググループ 兼 ゼロ化コンサルティンググループ マネジャー2021年、パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社に入社。前職ではHR業界における事業戦略/新規事業開発部門に所属。2022年には、...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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