デジサート・ジャパンは5月28日、事業戦略説明会を開催した。SSL証明書の有効期限短縮や耐量子暗号への対応を支援するソリューションの提供に注力するほか、国内の営業体制の拡充、パートナープログラムの刷新なども図っている。米DigiCert アジア太平洋グループバイスプレジデントのJames Cook氏と、新たにカントリーマネージャーに就任したデジサート・ジャパンの二宮要氏が、デジタルトラストを取り巻く課題と解決策について説明した。
証明書有効期限の段階的短縮で自動化が急務に

Cook氏は冒頭、デジタルトラストの重要性について「銀行のウェブサイトが本物かどうか、iPhoneのアップデートが正規のものかといった確認は、全てデジタルトラストのコンセプトに基づいている」と説明。その上で、業界が直面する最大の課題として証明書の有効期限切れによる障害を挙げた。

SSL証明書の有効期間は段階的に短縮される予定だ。現在の398日から、2026年3月に200日、2027年3月に100日、最終的に2029年3月には47日まで短縮される。同時に、ドメイン・IPデータの有効期間も10日にまで圧縮される。

「証明書の有効期間が47日になると、手作業での管理はほぼ不可能になる」(Cook氏)。実際、過去にはGoogle Chromecastの5日間停止、Windows Azureのクラウドサービス停止、英中央銀行の6兆ドル規模決済システムの一時ダウンなど、証明書期限切れが原因の大規模障害が相次いでいる。

量子コンピューティングの脅威とポスト量子暗号への移行
もう一つの大きな課題が量子コンピューティングの進歩だ。IBM、Google、Microsoft、Amazonなどが量子プロセッサの開発競争を加速させる中、現在のRSA暗号などが解読される脅威が現実味を帯びている。2024年8月、米国標準技術研究所(NIST)は3つの耐量子コンピューター暗号(PQC)基準を公表した。FIPS 203(ML-KEM)、FIPS 204(ML-DSA)、FIPS 205(SLH-DSA)で、いずれも格子問題やハッシュベース署名を基盤とする。
「ガートナーは2029年までに現在の暗号にリスクが顕在化すると報告している。企業の変更規模を考えると4年間は非常に短い。行動するなら今だ」とCook氏は強調した。

金融業界特化のX9 PKI標準でマネージドPKI事業を拡大
デジサートは金融サービス業界向けに、新たな標準「X9 PKI」を推進している。従来の標準では対応しきれない金融業界の30を超えるユースケースに対応し、WebTrustベースの監査フレームワークを提供する。
2026年6月15日にはGoogle ChromeがパブリックルートでのmTLS(相互TLS認証)を排除する予定のため、金融機関は喫緊でX9ルートへの移行が必要となる。DigiCertは2025年7月からX9ソリューションの提供を開始する。

「DigiCert ONE」で包括的なデジタルトラスト管理を実現

これらの課題に対応するため、デジサートは統合クラウドプラットフォーム「DigiCert ONE」を展開している。二宮氏は、3つの主力製品について詳しく説明した。

Trust Lifecycle Managerは、証明書の検知・管理・自動化を一元的に行う。「ボタン一つでどこに何があるかを即座に把握でき、1ヵ月かけてインベントリを作る必要がない」(二宮氏)。サーバー証明書だけでなく、プライベート認証局の構築も可能で、ゼロトラスト戦略に必要なクライアント証明書の発行・管理もカバーする。
Software Trust Managerは、CI/CDパイプラインと連携したコード署名の自動化を提供する。JenkinsやGitHubなど主要な開発プラットフォームと統合し、SolarWindsのようなサプライチェーン攻撃の防止に貢献する。

Device Trust Managerは、IoTデバイス向け証明書発行とソフトウェア署名を統合したソリューションだ。欧州のサイバーレジリエンス法や米国FDAの医療機器規制など、世界各国のIoT規制に対応した設計となっている。
日本市場での事業拡大に向け組織体制を強化

二宮氏は日本での事業拡大戦略として、営業組織の変更とパートナープログラムの刷新を発表した。新規開拓型とリニューアル対応型に営業組織を分離し、迅速な提案活動を可能にする。
パートナープログラムでは、システムインテグレーター向けのトレーニング充実と日本語コンテンツの拡充を実施。「パートナー様と共に市場を作っていく姿勢で進めたい」(二宮氏)とし、デリバリーまで対応可能なプログラムを構築した。
デジサートは、証明書有効期限の短縮化とポスト量子暗号への移行という二大課題に対し、自動化を軸とした包括的なソリューションで企業のデジタル変革を後押しする構えを示した。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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