大手小売業が人事データを可視化、カギは「1つに絞らないこと」勘と経験に頼らないシステム構築の術
IT人材のスキルを活かしてデータの「ばらばら・ぐちゃぐちゃ・まちまち」問題を解決するには

HR領域では特化型SaaSの導入が進む一方で、システム間のデータ不整合や重複入力といった新たな課題が顕在化している。2025年5月27日に開催された「HR×Data Forum」に登壇したパトスロゴスの田中美喜雄氏は、多くの企業が直面する「ばらばら・ぐちゃぐちゃ・まちまち」なデータ管理問題を解決する方法について解説。高度なIT人材を持たない企業でも、データ統合と標準化を実現できる具体的なアプローチを示した。
SaaS普及で浮上した新たなデータ統合課題
人事・システム領域に15年ほど携わってきた経歴を持つパトスロゴス 営業本部 Sales directorの田中氏は、講演冒頭に大企業における人事システムの変遷と現状を解説した。
約20年前、人事システムはSAPやOracle、COMPANY、POSITIVE、OBIC、Generalistといった統合型のパッケージソリューションが主流であり、それらを用いてすべての人事業務を一括して処理することが一般的だった。しかし、2025年現在ではその様相が一変している。
「現在は、“領域特化型”と呼ばれるSaaSソリューションの活用が盛んになっています。これまでに提供されているソリューションの数は200以上にのぼり、従業員1,000名以上の企業100社を対象に行った当社の調査でも、約8割がSaaSを活用しているという結果が出ています」(田中氏)

この変化の背景には、統合型システムでは対応が難しい業務改善のニーズがあるという。人事部門は、操作性やコスト効率の面で優れた特化型SaaSを、必要に応じて“柔軟に導入する”傾向を強めている。
たとえば、雇用保険や身元保証書などといった紙業務のペーパーレス化、早期のマネージャー育成を目的としたタレントマネジメントなどは特化型SaaSを有効活用できる業務の一つだ。また、小売業や医療業界ではAIによる自動シフト作成、製造業では健康経営を支援する“健康管理クラウド”など、業種ごとの特性に応じた導入も進んでいるという。
こうした多様なSaaS導入が進む一方で、新たな課題も生じている。それが、複数のシステム間にまたがることによって発生する「データ統合」の問題だ。
「システムが分散することで、データの鮮度や粒度が揃わなくなっています。これは多くの企業が直面している共通課題です」(田中氏)
この課題の内訳を分析すると、「ばらばら」「ぐちゃぐちゃ」「まちまち」という3つの問題に大別できると同氏は語る。

1つ目の「ばらばら」は、マスタデータの所在がわからなくなるという問題だ。たとえば、スキル情報はタレントマネジメントシステムに、資格情報は人事給与システムに登録されており、“どの情報を見て担当者が判断すればよいのかわからない”といった状況が多くの企業で生まれている。
2つ目の「ぐちゃぐちゃ」は、各システムの仕様による入力・表示の差異を指す。「たとえば、姓名の入力一つを取っても、1行でまとめて入力する仕組みのシステムもあれば、姓と名を別々に入力する2行構成のものもある」と田中氏は説明する。
そして3つ目の「まちまち」は、データの鮮度の問題だ。「一方のシステムでデータを更新しても、他のシステムには反映されず、結果的に誰にも使われなくなる」といった事態が生じる可能性も指摘した。
メガベンチャーIT企業などが進める先進的データ統合法を、限られたリソースで実現するには
こうした人事領域のデータ統合に関わる課題解決への糸口について、田中氏は先進的な事例として某メガベンチャーIT企業の取り組みを挙げた。同社では複数のシステムを併用しながらも、精度の高い“データの一元化”を実現しているという。
「ピープルアナリティクスの先進事例として知られる企業では、IT人材のスキルを活かし、ばらばら・ぐちゃぐちゃ・まちまちといった問題を克服しています。ただし、非常に優れた取り組みであるからこそ、同様のことができる企業はごくわずかです」(田中氏)
このような状況を受けて、田中氏が所属するパトスロゴスでは、統合的な人事データ管理を一般企業でも実現可能とするための共創型HRプラットフォーム「PathosLogos(パトスロゴス)」を開発。同氏は「我々はHRデータのインフラ提供を目指しており、既に各種HR関連のSaaSと接続が可能な独自の連携基盤を構築している」と紹介した。

PathosLogosは、異なるSaaS間を接続する「共通のハブ」として機能し、データの統合管理・標準化・再利用を支援する。たとえば、SmartHRで入力したデータは、PathosLogosを経由してカオナビなどのタレントマネジメントツールと連携可能だ。「電化製品が共通のプラグでつながるように、ITの世界でも標準化された連携が可能になるべきだ」と田中氏。
従来のERPのような単一システムに依存せず、人事・給与、勤怠、健康管理、タレントマネジメントといった各領域に特化したSaaSを“一体化”したかのように活用できる環境が整う。田中氏は「これが、これからの人事データ整備のスタンダードになっていく」と語る。なお、同ソリューションの特長は下記3点だ。
- データの統合管理:各SaaSとの連携を通じて人事データが統合され、使えば使うほど“リッチな”データベースになる
- 事業環境の変化に柔軟に対応:SaaSの柔軟性を活かし、事業環境の変化に応じて迅速にシステム構成を変更できる
- 標準化されたデータベースを介して連携:表記や形式の違いによる「まちまち」問題を解消できる
言い換えると、PathosLogosは「連携の通り道」であり、これまで統合管理が難しかった健康管理データなども蓄積できるだけでなく、人的資本経営に向けてデータ活用も促進されるような副次効果も期待できるという。
大手小売業が人事データを可視化、成功のカギは“1つに絞らない”こと
次に田中氏は、とある大手小売企業における活用事例を紹介。従来、人事システムは企業規模にかかわらず、1つのシステムで統合することが正しいとされてきた。しかし、「それはベンダー側の都合によって定義されたもの。規模や業種などに合わせてシステムを適材適所で選ぶことが生産性を高める手法の一つだ」と指摘する。
その企業はPathosLogosを中核に据えながら、人事給与システムとSmartHRを連携させて運用することで(勤怠管理については、既存システムを活かしつつ)従業員のデータを可視化。1つのシステムに統合するのではなく、グローバル人事システムと連携しながら、横串でデータを可視化できたとのことだ。

また、カオナビとSmartHRを導入していた企業では「人事マスタの正確な所在が不明」という課題があったが、PathosLogosの導入によって解消できたという。
「人事マスタを定め、全システムと連携させたことで、データの正しさがシステム上で保証され、給与計算に必要な情報も迅速かつ正確に集まりました。その結果、人数を増やすことなくアウトソーシングから内製化へと転換できました」(田中氏)
なお、講演ではSmartHRでの扶養家族に関する申請データが、PathosLogosを介して人事システムに連携され、カオナビで確認するまでの一連の流れがデモンストレーションで紹介された。PathosLogosは「Talent Palette」「オフィスステーション 労務」「TeamSpirit」「KING OF TIME」「スキルナビ」など、既に30近くのSaaSと連携可能であり、直感的なUIでデータマッピング操作も容易に行えるという。

さらに特筆すべき点として、田中氏は「大企業特有の人事業務の複雑性に対応できる点」を挙げた。兼務発令やグループ内出向、昇格といった業務にも対応できるだけでなく、部署のツリー構造を管理できる仕組みにより、親子関係を維持しながらも入力ミスが起きないように配慮されているとのことだ。
また、給与業務においては、これまで「勘と経験とチームワーク」に依存していた確認作業をシステムで自動化している。「ほとんどの給与システムは税計算を担うが、そのほかの確認作業は属人的に行われていた。これが、属人化という課題を生んでいた」と田中氏。具体的には、前月との比較による変動理由の自動提示(例:休職による日割り計算)や、誰がいつ確認したかを追跡できる履歴管理機能、変更理由の明示機能などで対応しているという。
さらに、プラットフォームに蓄積されたデータを活用することで、離職率の傾向把握といった高度な分析も可能になる。たとえば「IT部門全体で離職率が高く、なかでもエンジニアチームや勤続1~3年の層に課題が集中している」などの状況を定量的に把握可能だ。加えて、前年比較や評価別・属性別のクロス分析も瞬時に実行できるため、人的資本のマネジメントに活かせる分析基盤としてのポテンシャルも備えている。
「システムというものは本来、人を助けるものであるべきです。しかし現状では、システムのためにデータを入力し、システムのために連携作業を行うといった、本末転倒な状況が存在しています。我々はこうした無駄な作業をすべてなくしたいと考えています。
現在、多くの企業では人事業務が“勘と経験”に依存しているのが実態です。私たちは、そこにシステムを用いて生産性を高め、工数を削減し、余力を創出する。さらに、その余力を活かしてデータ分析までを一気通貫で行えるようにするためのプラットフォームを提供しています。それこそが『PathosLogos』です」(田中氏)
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提供:株式会社パトスロゴス
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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