三井化学とIndeedが壊した「AI活用の壁」──“20年来のアドオン地獄”と“2年待ち”を打破
「岩盤層」を突き崩し、アドオンを2,000本から7本に縮小
生成AIの登場により、企業のDXは「導入」から「実利の創出」という新たなフェーズへ突入した。しかし、AIを活用しようとしても、社内に散らばるデータの分断や組織文化、レガシーシステムが壁となり、変革が思うように進まないケースが後を絶たない。Salesforceが開催した「Agentforce World Tour Tokyo」では、「CDO・CIO・経営企画・人事と考える、データ×AI×人材──組織を変革する次世代の成長戦略」と題したパネルディスカッションを実施。三井化学 常務執行役員 CDOの三瓶雅夫氏、Indeed CIO 兼 CSOのアンソニー・モイサント氏が登壇し、モデレーターをSalesforce EVP Chief Digital Officerのジョセフ・インゼリロ氏が務めた。AIが真に成果を生むために必要な変革の全体像を、三井化学とIndeed、両社の実践から探る。
受動型から能動的に 生成AIがビジネス変革のエンジン
セッション冒頭、三瓶氏は三井化学が掲げる長期経営計画「VISION 2030」におけるポートフォリオ変革の重要性を強調した。
従来のビジネスモデルは、顧客から「耐衝撃性がほしい」「もっと硬くしてほしい」といった要望を受け、それに適した素材を提供する「素材提供型」だ。顧客の要望に誠実に応えるスタイルではあるが、あくまでリアクティブ(受動的)な動きにとどまっていた。
しかし、2030年に向けて目指すのは「ソリューション型」への転換だ。顧客自身も気づいていない潜在的な課題や将来の需要を先回りして予測し、提案を行う「プロアクティブ(能動的)」なスタイルへの変革を意味する。
「素材を提供して終わりではなく、たとえば太陽光発電のコンサルティングサービスのように、サービスフィーをいただくようなビジネスも加えていく。そのためには、新規市場の開拓や新製品の創出を劇的なスピードで進める必要があります」と三瓶氏は語る。
この変革を加速させるエンジンとして、同社は生成AIを戦略的に導入したという。特許情報や学術論文、ニュース記事、SNSの投稿といった大量の外部情報と、自社が持つ材料の機能特性や化合物名などの情報を組み合わせ、自然言語処理によって知識グラフ(情報同士の関係性を可視化したネットワーク)を構築している。
「人間だけでは気づかない『繋がり』をAIが教えてくれます。たとえば、食品包材に使われていた材料が電子部品関連の用途にも使えるといったことです。これはまさに人間の能力をオーグメント(拡張)するAIの使い方です」(三瓶氏)
この取り組みにより、既に197個もの新しい用途や市場機会が見つかり、順次事業化が進められているという。AIは単なる効率化ツールではなく、トップラインを伸ばすための「探索者」として機能しているのだ。
2年かかる試算もスピード対応 Indeedで4,400のAIエージェントが稼働中
三井化学がAI活用で成果を上げている一方で、多くの企業が直面するのが「データ整備」の壁だ。AIに学習させるためのデータが社内に散らばり、サイロ化している問題である。この点について、Indeedのアンソニー氏は率直に語った。
「AIは人間と同じように教育が必要です。人間には優れた教材が必要なように、AIにも優れたデータが必要です。しかし、CIOやCDOにとってデータの複雑さは頭の痛い問題です」(アンソニー氏)
当初、IndeedではAI活用に向けたデータ整備に2年間を費やす覚悟をしていたという。しかし、Salesforceの「Data 360」を採用したことで状況は一変した。
「データをSalesforceに移動させるのではなく、Salesforce(のAI)をデータがある場所に持っていくことができるようになりました。2年かかると考えていた準備期間がなくなり、即座に価値創出にフォーカスできるようになりました」(アンソニー氏)
現在、Indeedでは4,400ものAIエージェントが稼働している。「従業員数が11,000人の会社で4,400のエージェントが動いていると聞いたときは、最初は興奮し、次にパニックになりました」とアンソニー氏は笑いを誘いつつ、AIを「人間と同じようにマネジメントすべき対象」として扱う同社の哲学を披露した。
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加藤 智朗(カトウ トモロウ)
Forbes JAPAN編集部を経て、フリーの編集・ライター。経済誌・経済メディアで編集、企画、制作管理、デスク、執筆などを担当。関心領域はスタートアップや海外動向をはじめ、ビジネス全般。ポートフォリオ(制作実績など)
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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