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クレディセゾン・栗田工業・アフラックが実践した「真のAIドリブン経営」とは

日本テラデータ 「AI Innovation Day 2025 Tokyo」レポート

 生成AIへの期待は高まるものの、実際のビジネス価値創出で94%の企業が挫折している現実がある。 5月29日に開催された日本テラデータの「AI Innovation Day 2025 Tokyo」では、クレディセゾン、栗田工業、アフラックの先進事例を通じて、AIドリブン経営への転換が紹介された。汎用AIエージェントではデータの不整合やハルシネーション問題が避けられない中、統合データ基盤と業種別データモデル、専門性の高いAIエージェントの連携こそが成功の鍵であることが示された。

エンジンから車へ、Teradataが目指すソリューション変革

日本テラデータ 代表取締役社長 大澤毅氏
日本テラデータ株式会社 代表取締役社長 大澤毅氏

 生成AIへの期待は高まるものの、実際のビジネス価値創出に苦戦する企業が多い。84%の企業がデータやAIに期待しながら、PoC(概念実証)後に本格的なAI導入に至る企業はわずか6%という現実がある。この課題に対し、日本テラデータは「真のAIドリブン経営」というコンセプトで解決策を提示している。

資料提供 日本テラデータ [画像クリックで拡大]

 同社が目指すのは、統合データ基盤と業種別データモデル、そして専門性の高いAIエージェントが連携する仕組みだ。「信頼できるデータとAIで正しいアクションに繋がる世界を実現したい」と日本テラデータ 代表取締役社長の大澤毅氏は語る。

 従来のTeradataは「エンジン」としてのTeradata Vantageを提供してきた。しかし顧客が本当に欲しいのは「車」だという認識から、2024年12月にAI事業戦略を発表し、この5ヵ月間で大幅な進化を遂げた。

 そして完成したのが「Teradata Vantage AI Offering」だ。高性能なデータ基盤に加え、金融、製造、流通、通信、運輸、ヘルスケア、公共などの業種別データモデルをプリセット。さらにAIコールセンター、デジタルマーケティング、不正検知、暗黙知の形式知化AIなど、専門AIエージェントが動くアプリケーション層まで提供する。

資料提供 日本テラデータ [画像クリックで拡大]

 「これまではエンジンを提供し、その後のユースケースはお客様主体で検討いただいていました。しかし昨今のスピード感に対応するため、AIアプリケーションをあらかじめプリセットした形でお届けします」(大澤氏)

 続いて登壇した、TeradataのパートナーのAtPeak CDOの藤田正則氏は、専門性の高いAIエージェントの威力を説明する。「AIコールセンターでは、お客様対応で1,500ミリ秒以下での応答が必須です。お客様の課題をその時間内に解決するには、強靭なデータ基盤が不可欠でした」

 AtPeakが開発したAIアプリケーションの特徴は、固定データではなく動的にAIがデータにアクセスし、MCPサーバーを活用して複数のAIモデルを並列で高速動作させる点だ。

 「AIエージェントのスワーム機能を実現するには、Vantageの強靭なデータ基盤が必要でした」(藤田氏)

1人から200人へ、クレディセゾンが実現した内製化の奇跡

クレディセゾン 取締役兼専務執行役員CDO兼CTO 小野和俊氏
株式会社クレディセゾン 取締役兼専務執行役員CDO兼CTO 小野和俊氏

 クレディセゾンのDX戦略は、一人の技術者から始まった劇的な変革物語だ。取締役兼専務執行役員CDO兼CTOの小野和俊氏は、シリコンバレーでの経験とスタートアップ創業を経て、2019年にクレディセゾンに参画した。

 小野氏が入社した背景には、同社の痛烈な経験があった。2008年に開始し3年で完了予定だったクレジットカード基幹システムの更改が、延伸に次ぐ延伸で10年もの歳月を要したのだ。

 「世の中がどんどんデジタルシフトしていく中、正直かなり厳しい状況からのスタートでした」(小野氏)

 この経験から、小野氏は「決して計画し過ぎない」ことと「従来のやり方を絶対に否定しない」という2つの原則を定めた。最初はプログラマーは小野氏1人のみ、やがてプログラマーが6名に増え総合職を加え総勢8名の「テクノロジーセンター」としてスタートした。スマホアプリの内製を皮切りに、確実に成果を積み重ねていった。

3段階のフェーズで進化するDX戦略

  • フェーズ1(2019-2020年):内製化の実験的開始。スマホアプリの月間アクティブユーザーが劇的に増加し、SNSフォロワーも半年で1万人から20万人超に急増。「とにかくクイックウィンを出そうと愚直に泥臭くやった」成果が目に見える形で現れた。
  • フェーズ2(2021-2022年):全社DXの推進。「CSDX VISION」を掲げ、顧客体験(CX)に加えて従業員体験(EX)の向上を目指した。内製チームと情シス部門を統合する「CSDX推進部」を新設し、バイモーダル戦略を本格展開。
  • フェーズ3(2023-2024年):市民開発の実現。事業部門が自らノーコード・ローコードツールを活用する体制を構築。3つの事業部門を対象に、業務時間の4割を開発に振り向ける担当者を選定し、全社員によるDXを推進。

武士と忍者をどう融合させるか/バイモーダル戦略で組織の対立を乗り越える

資料提供 日本テラデータ [画像クリックで拡大]

 小野氏が最も苦労したのは、性質の異なる部門の融合だった。モード1(従来型IT部門)とモード2(デジタル部門)の社員間で軋轢が生じたという。この対立構造について、小野氏は武士と忍者の比喩で説明する。

 「モード1は従来型の安定性重視、計画重視のアプローチで、よく武士に例えられます。武士は鎧を身にまとっているため、矢が飛んできても致命傷を避けられますが、鎧の重さが動きの遅さにも繋がる。一方、モード2は忍者のようにスタートアップ的な動き方です。機動性は非常に高いのですが、鎧がないため、落とし穴を踏んだり毒矢が飛んできたりすると致命的なダメージを受けてしまいます」

資料提供 日本テラデータ [画像クリックで拡大]

 この両方の良さを共存させるのがバイモーダル戦略だと小野氏は言う。モード1のカルチャーの中にスタートアップ的なカルチャーをいかに取り入れるか、それこそが「日本企業のDXにおける最も困難な課題」と小野氏は指摘する。

 この対立を解決するため、小野氏は内製チームに「頭にくることがあっても絶対に怒らない」「短所ではなく長所を見る」といった厳格な原則を設けた。

伴走型内製開発が生み出した成果

 小野氏が重視したのは事業部門との「伴走型」開発だ。「緩い相談」も受け付け、内製チームが実際に業務を体験。1週間でプロトタイプを作成し、好評なら開発続行、そうでなければ見直しという柔軟なアプローチを取った。

 結果として、2019年比で累計125万時間(最新では150万時間)の業務自動化を実現。これは社員750人分の仕事に相当する。「経営会議で全てのシステムについて『内製を検討したか』と聞かれる状況になりました」(小野氏)

生成AI活用で経営陣を巻き込む組織変革を始動する

 小野氏はDXに関する経営会議の運営方法を変革した。従来の詰め詰めのアジェンダではなく、月1回1時間の会議を前半の従来型経営会議と、後半の完全フリーディスカッションに分割。「2022年7月末にStable Diffusionが出たときも、11月にChatGPTが出たときも、翌週には社長以下役員全員がデモを見ていました」と話す。

 さらに率先垂範として、役員全員を集めたノーコードブートキャンプも実施。社長自ら「私にもできるならやってみたい」と参画し、全社員のデジタルリテラシー向上を推進した。

TeradataとのパートナーシップでAIトランスフォーメーションめざす

 クレディセゾンは30年前からTeradataを活用してきたが、小野氏はその進化に驚きを隠さない。「パッケージベンダーだったTeradataが、コールセンター、暗黙知、不正検知など業務特化のソリューションを提供するとは全く思っていませんでした。現在、Teradataはバイモーダル戦略の両面で支えてくれています」(小野氏)

 現在同社がTeradataと共同で取り組むフェーズ4は「AIトランスフォーメーション」だ。小野氏は今後のTeradata活用について「AIオファリングがどこで使えるか、定期的な情報交換を通じて検討していきたい。当社の内製化された技術者が、クレディセゾン向けのVantage AIを一緒に作っていければ」と期待を込める。

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水処理のプロを目指す栗田工業のパーソナルAIエージェント

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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