セールスフォース傘下でもインフォマティカの中立性は変わらない──来日したField CTOが語る
Salesforce Field CTO, Daniel Hein(ダニエル・ハイン)氏
データ統合とマスターデータ管理(MDM:Master Data Management)の老舗インフォマティカが転機を迎えている。2025年5月にセールスフォースによる買収が発表され、同年11月に完了。続く2026年5月の「Informatica World 2026」では、データ管理基盤「CLAIRE」のヘッドレス化やAIツールとデータをつなぐ標準仕様(MCP:Model Context Protocol)への対応、AWS・Google Cloud・Databricks・Snowflakeなど主要クラウドとの連携拡張が一斉に打ち出された。メッセージは「AI-Ready(AIに備える)」から「AI-leading(AIで先行する)」へと更新され、AIエージェントにどの画面・どのクラウドからでも信頼できるデータと制御を届ける“ヘッドレスなデータ管理レイヤー”への軸足移動が鮮明になっている。本稿では買収発表直後の2025年6月、セールスフォースでField CTO, Data Foundationsを務めるダニエル・ハイン(Daniel Hein)氏に同社の戦略を聞いた。
──まず、ハインさんのバックグラウンドと、インフォマティカに加わった経緯を聞かせてください。
ハイン 27年間、データマネジメントに身を置いてきました。キャリアはOracleやIBMでのデータ統合から始まっています。当時はデータの統合やガバナンスへの意識が低く、データといえばExcelに数字が並ぶ程度のものでした。もともとBI周辺やアプリケーション統合の仕事をしており、ERPからデータウェアハウスへデータを移行する際に使っていたツールがたまたまインフォマティカで、「これは素晴らしい」と感じたのが縁です。データの分野で最も優れた会社で働きたいと考え、転職しました。
──その歴史の中で、インフォマティカのアイデンティティはどう変わってきたのでしょうか。
ハイン 最も大きかったのは7年前の転換です。それまでオンプレミスで個別に提供していたソリューションをクラウド化し、プラットフォーム化していきました。最初は統合、その後は品質やカタログ化、ガバナンスも1つのプラットフォームで対応できるようになり、機能を横断的に使える環境が整いました。ガートナーによれば企業の約9割はまだAI活用の準備が整っておらず、その大きな理由はデータの品質にあります。
私たちの強みはコンテキストを提供できる点です。建物にたとえれば、基礎となる地盤がデータ品質、その上にカタログ化、ガバナンス、入居者を把握するアクセスコントロールやMDMがあり、全体を見るオブザーバビリティがある。多少の地震があっても倒れない建物を建てられる、それが私たちです。
──各社がプラットフォーム化を掲げる中、ユーザー企業からは「かえってコストが膨らむのでは」という懸念もあります。
ハイン 実際のお客様を見ると、もともとマルチクラウドだったり、合併でAWSを使う会社とGCP(Google Cloud Platform)を使う会社が統合されたりするケースがよく起きます。当然データカタログも複数になり、データ環境が断片化(フラグメンテーション)してしまう。日本の武田薬品の例では、断片化の解消に私たちのサービスを採用いただき、ソリューション数を9つから2つに減らせました。オーストラリアの小売企業では、20種類のソリューション、12製品を使っていたものを一括対応し、全体コストを60%削減しています。
──将来への投資という観点では、どう考えればよいでしょうか。
ハイン たとえば、Databricksは6年前にはほとんど存在感がありませんでしたが、今や非常に大きな存在です。2〜3年後の環境は予測が難しく、クローズドなエコシステムに縛られると、新しいソリューションへ移る際にすべてを再設計しなければなりません。できる限りアグノスティック(特定環境に依存しない中立的な姿勢)で対応できることが重要です。断片化を解消し、AIや分析に効率よくデータを供給できる環境を整えることで、ツール数の削減など様々なメリットが得られます。
──セールスフォースのエコシステムに統合されることで、強みだった中立性が損なわれるのではという懸念はないでしょうか。
ハイン ご安心ください。中立性はこれからも担保されます。お客様は大手エンタープライズが多く、特定の環境に特化した形ではAI推進の話が進まない実情もあります。先月のカンファレンスでもAWS、GCPとの新しいイニシアチブを発表しました。セールスフォース自身が「中立で進めてほしい」と明言してくれていますし、MuleSoftをはじめ買収してきたサービスも含め、その方針は変わりません。
──既存のセールスフォース傘下サービスとの棲み分けやシナジーはどのようなものでしょうか。
ハイン MuleSoftはリアルタイムAPIの管理や統合に強く、アプリケーション同士やAIエージェント同士の接続・オーケストレーションに機能します。私たちはデータ統合や大量データの処理・移行が得意で、両者が組み合わさればリアルタイムでもバッチでも様々な統合ニーズに対応できます。
もう1つがData CloudとMDMの組み合わせです。MDMは「Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)」として、間違いが許されない領域で正確なデータを提供する。一方のData Cloudは顧客プロファイルの構築やリアルタイムのアクティベーションに向く。MDMが広範なゴールデンデータであるのに対し、Data Cloudは顧客データに特化しており、互いに補完的です。
──今年の年次カンファレンスでは、データ管理基盤IDMC(Intelligent Data Management Cloud)の機能を画面から切り離す「Headless Data Management(ヘッドレス・データマネジメント)」が示されました。エージェントが裏側で動く時代に、複雑性が増すのではという懸念もあります。
ハイン これまでデータ統合や品質、ガバナンス、MDMといった機能は、それぞれのIDMCの画面を開いて操作するものでした。ヘッドレスではそれらをUIから切り離し、どのアプリからでも呼び出せる“部品”として提供します。Copilot、Teams、Claudeといった様々なAIアシスタントを1つのインターフェイスとし、そこからインフォマティカの機能にアクセスできるようにする。背後ではMCPによって既存資産をそのままAIから扱える形にしています。複雑性が増すという懸念はもっともですが、むしろ逆で、利用者から見れば操作する画面が集約され、裏側の複雑さは私たちが引き受けます。
──その「呼び出される側」のデータには、セマンティックレイヤーやオントロジーが関わってくると。
ハイン その通りです。「このお客様についてこういうレポートが欲しい」と問いかければ、MDMを使って様々な情報を引っ張ってきます。ここで効くのが、データ同士の意味の関係を定義したセマンティックレイヤー(意味の層)と、それを体系化したオントロジー(意味の体系)です。MDMが「絶対に正しい」ことを担保するゴールデンデータ、その上に意味づけを行うセマンティックレイヤー、全体を体系化するオントロジー。この3層があって初めて、AIエージェントが文脈を取り違えずにデータを使えます。
──そうなると、ダッシュボードの役割は変わっていくのでしょうか。
ハイン ガバナンスがしっかりし検証も済んだ情報という意味で、ダッシュボードはこれからも有効です。ただ、今すぐ関係を見たい時にアナリストが検証する時間はなく、「このデータはどこから来ているのか」をすぐ知りたい時には先ほどのソリューションが有効です。一方で、人事が参照する給与や住所のように見せてはいけないデータもあり、そのアクセス定義はきちんとしたデータ管理が変わらず必要です。
──データエンジニアの方々または経営層に向けて、メッセージはありますか?
ハイン AIが出すものを高級レストランの料理にたとえるなら、データはその原材料です。最もベースとなるデータがしっかりしていなければ、良いものは出てきません。フラグメンテーションを避け、できる限り簡素化・自動化して良いデータ基盤を持っていただきたい。そして何より、データが企業にとって非常に重要な資産であるという意識をしっかり持っていただきたいと思っています。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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