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大塚製薬×AWSが切り拓く診断イノベーション/130億文字のゲノム解析を現場に届ける

AWS Summit Japan 2025:大塚製薬セミナーレポート


 医療現場の診断が止まることは許されない。大塚製薬は「流汗悟道」の精神を受け継ぎ、AIやアイトラッキング、ゲノム解析といった先端技術を駆使して診断の現場を革新する。130億文字に及ぶ“究極の個人情報”をAWSクラウド上で安全かつ高速に処理し、24時間365日の安定運用を実現。現場発のイノベーションが2035年の医療の姿をどこまで変えるのか、その挑戦の全貌に迫る。

「流汗悟道」の精神が生んだ、大塚製薬診断事業の革新力

大塚製薬株式会社 診断事業部 執行役員 事業部長 大橋達朗氏
大塚製薬株式会社 診断事業部 執行役員 事業部長 大橋達朗氏

 大塚製薬の名前を聞くと、多くの人たちが「ポカリスエット」「カロリーメイト」「ソイジョイ」などのコンビニの店頭に並ぶ商品を連想するところだが、実際には大きく2つの事業の柱があり、お馴染みの商品は、ニュートラシューティカルズ関連事業で展開しているものになる。そして、もう1つの事業の柱が医薬関連事業である。その規模はニュートラシューティカルズ関連事業よりも大きく、母体の大塚ホールディングスの売上高は好調に推移しており、国内では武田薬品工業に次いで2位、世界でも20位前後に位置する。

 大塚グループ発祥会社の大塚製薬工場の創業は1921年。その歴史は古く、グループ全体で企業理念「世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する」を共有している。そして、創業者の大塚武三郎氏、2代目の大塚正士氏、3代目の大塚明彦氏がそれぞれ掲げた「流汗悟道:単なる知識だけでなく、自らが汗を流し実践して感じることの中に本質がある」「創造性:真似をさせず、大塚にしかできないことを追求する」「実証:物事を成し遂げ完結することで自己実現そして真理に達する」は企業カルチャーとして受け継がれ、「Well-beingな未来を創る」というビジョンの実現を目指し、日々の事業活動を展開している。

 大橋氏が責任者を務める診断事業部では、臨床検査に関する製品やサービスを提供している。ここでの臨床検査とは、創薬プロセスにおける臨床試験ではなく、患者の健康状態を評価し、病気の診断や治療効果の確認を行うための検査のことで、血液や尿、身体の組織などのサンプルを分析し、病気の有無や進行度を判断する。最近では、SaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)と呼ばれるソフトウェアを用いた新しい検査手法も登場している。

 大塚製薬の診断事業部の組織は、「研究開発から、生産、販売までその全てをカバーする小さい会社のような体制」と大橋氏は説明した。事業運営にあたっては、「流汗悟道」の通り、自らが汗を流して実践することを重んじながらも、グループ会社を含む国内外のパートナーとの協業にも積極的だ。現在の注力分野には、血液がん(いわゆる白血病)を始め、中枢・神経、腎・循環、感染症などで、主力商品には、胃がんの原因になるヘリコバクターピロリ菌の感染を診断する仕組み、コロナウイルスの感染を診断する仕組みがある。診断事業は日本の他、12ヵ国で多くのパートナーと共に展開中で、「多くの新しいことに挑戦している」と大橋氏は訴えた。

アイトラッキングとデジタルメディスンが拡げる医療DX

 その中でも、特に期待されているのがデジタル製品である。大塚製薬がその開発に取り組み始めたのは2010年代に遡る。2012年から開発を始めた世界初のデジタルメディスンは、極小センサーを組み込んだ製剤と、パッチ型のシグナル検出器および専用アプリを組み合わせたシステムで、患者の服薬状況を記録し、医療従事者や介護者を支援するものになる。2017年には米FDAの承認を得て実用化にも成功した。また、2016年に販売を開始した精神科電子カルテ分析ソリューションは、当時は数値化が困難とされていた病歴や症状の情報を、IBM Watsonの自然言語処理テクノロジーを用いて解析し、データベース化して医療従事者が参照できるようにするものだ。

2010年代から取り入れてきた最新テクノロジー 出典:大塚製薬 [画像クリックで拡大]

 さらに、2025年1月から新しい認知症の検査プログラムの販売を開始した。従来の認知症の検査は、ミニメンタルステート検査 (MMSE)と呼ばれ、「今日は何月何日ですか?」「ここはどこですか?」など、11の質問への回答から時間、場所、記憶力、言語能力などを評価するもので、約20分の検査時間が必要な上に、検査者によって結果が変わるため、被験者が検査に心理的負担を感じてしまうなどの問題があった。これを解決するために着目したのが、アイトラッキング(視線計測)テクノロジーである。タブレット端末にインストールした検査アプリを利用することで、所要時間は約3分、簡便に検査ができるようになった。大橋氏は、「アプリを用いた保険適用対象の検査手法を確立することは難しかったが、これはベストユースケースになると思う」と評した。この仕組みのインフラを支えているのがAWSの各種サービスである。

 さらに、大塚製薬では、2025年3月に血液がん遺伝子パネル検査の仕組みの提供を開始した。これは400個以上の遺伝子を一度に検査できるシステムで、医療機関から「ゲノム検査の時代が来る!」など、注目と期待を集めている。血液がんに関連する遺伝子400個のゲノムデータは、GATCの文字列に換算して130億文字になる。A4用紙で積み上げると700メートル、東京スカイツリーの高さに匹敵するという。大量の文字列を解析し、1つか2つある遺伝子の変異を発見する。この気の遠くなるような処理をプログラムにし、1つの検査あたり最大100件までを並列処理できるようにAWS上に実装した。

血液がん遺伝子変異解析の仕組み 出典:大塚製薬 [画像クリックで拡大]

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130億文字の"究極の個人情報"をAWSで守り抜くゲノム解析基盤

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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