損保ジャパンのCIOが語るITコスト管理の最適化、その先に描く組織の未来……IT人材の地位向上にも?
TBM Summit 25:Japanローンチイベント Vol.1

企業におけるデジタル化やIT環境の刷新、AI活用が進む中で、ITコストの増大と複雑化が避けられなくなっている。システム開発費と運用費のバランス、予算と実績の乖離、事業部門との配分調整といった課題が、経営の意思決定を鈍らせているという話も出てきている。こうした状況下で注目を集めるのが、「TBM(Technology Business Management)」と呼ばれる管理手法だ。本稿では、TBM Council Japan主催「TBM Summit 25:Japanローンチイベント」に登壇した、損害保険ジャパンでCIOを務める内山修一氏の講演レポートをお届けする。同社は、2025年度よりTBMの初期導入に踏み切り、経営・事業・ITの三位一体による変革を目指している。
IT部門だけでは解決できない“構造的な課題”が判明
テクノロジー投資の透明化と最適化は、情報システム部門だけの課題ではない。経営判断を支える基盤の重要な要素として、ITコストの全体像の把握と、事業との整合性が求められている。しかし多くの企業では、投資判断の根拠が不明確なままプロジェクトが進んでしまい、保守運用にかかるコストの増大で成長投資が圧迫される状況に陥っている。
こうした課題に対し、近年注目を集めているのが「TBM(Technology Business Management)」という管理手法だ。あらゆるテクノロジーコストを可視化し、それらが生み出す価値との対応関係を明確にすることで、ITを「単なるコストから戦略的投資へ」転換させる手法である。コストの“見える化”を出発点に、経営と現場が共通指標で対話できる状態を作り出すことがTBMの本質だとされている。
損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)も、この手法を実践する一社だ。TBM Summit 25の事例講演に、同社でCIOを務める内山修一氏が登壇した。同氏は、SOMPOシステムズ/SOMPOシステムイノベーションズの代表取締役社長も兼務しており、グループの大規模システム刷新を主導している。

内山修一氏
多くの企業が直面するのと同じように、損保ジャパンもまた、ITコストの高止まりという構造的課題を背景にTBMに取り組み始めた。内山氏は、「テクノロジーのランニングコストが高く、バリューアップ投資の比率が低い状況にある企業は少なくない。同社も例外ではなかった」と語る。適正なITコストの水準をベンチマークで比較した際に、売上に対するランニングコストがグローバル平均よりもかなり高い水準にあったのだという。
保険会社の事業費構造のうち、大部分を占める主な構成要素は、代理店への手数料、人件費、そしてITコストだ。そのため、ITコスト水準の高さは事業費率に直結する深刻な問題であった。
この状況に対し、同社の経営陣は当初、ITチームの生産性やスキル不足、あるいはパートナー企業との関係に問題があるのではないかと考えた。しかしこれでは、IT部門が非常に大きな責任を背負うことになってしまう。この見立ては正しいのだろうか。
詳細な分析を進めてみると、次第に根本的な構造への理解が深まっていった。IT部門内でも改善できる点は見つかったものの、目指すべき水準を考えると、IT部門だけの努力では到底達成できそうにないことが判明したのだという。そして、現在のITコストやIT部門の仕事のやり方は、これまでの経営や事業における判断・意思決定の積み重ねによって作られたものだという因果関係がわかってきた。まず内山氏は、この構造的問題への理解を他の経営陣と共有することに多くの時間を費やした。
最終的には、「本当にありたい姿を目指していくためには、『経営・事業・IT』の三位一体で問題解決と変革に取り組んでいく必要がある」という合意形成に至ったと内山氏。そして、そのためにはテクノロジー投資の実態を定量的に可視化し、経営陣や事業部門とも透明性を以て対話できる共通の言語・基盤が必要だという考えに到達。ここからTBMの導入へと至った。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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