コロナ危機で仕込んだ「DXのタネ」が花開いた旭化成ホームズ “紙文化”残る不動産業界での奮闘劇
「結果に責任を持つIT部門をつくる」リーダーが示す“経営にコミット”するカルチャーの重要性

「DXが最も遅れている業界」ともいわれる不動産・建設業界。しかし、コロナ禍を経た営業活動や顧客接点の変化を受け、業界全体でデジタル化の波が一気に加速している。旭化成グループの住宅事業を担う旭化成ホームズも例外ではなく、セールスDXや顧客体験の高度化、入居者専用アプリの開発など、多面的な取り組みを展開中だ。こうした全方位的なDXを統括・推進しているのが、DX・IT推進本部 本部長の中村干城氏。建物という長期的な関係性が求められる商材、アナログ志向が根強い営業部門、そしてシニア層の多いステークホルダーなど、DX推進における様々な難所をどう乗り越え、変革を実現しているのか。中村氏と、実際の現場でアプリケーション開発などのDX施策に取り組む山口俊氏に、取り組みの詳細を伺った。
コロナで一気に絶たれた集客ルート……危機を打破する手立てはセールスDX施策
新型コロナウイルスの流行によって、不動産・建築業界は大打撃を受けることになった。「ヘーベルハウス(HEBEL HAUS)」などのブランドで知られ、旭化成グループの住宅事業を担う旭化成ホームズで、当時マーケティングの責任者だった中村干城氏も「本当に危機的な状況だった」と振り返る。
住宅展示場は、ハウスメーカーにとって極めて重要な集客装置だ。とりわけ旭化成ホームズでは、成約した顧客の約8割が住宅展示場を訪れており、顧客との最初の接点を担う重要なチャネルであったという。しかし、2020年にコロナが流行してからは、ゴールデンウィークや夏休みといった多くの集客が見込まれる時期でも展示場を閉鎖せざるを得なくなり、メインの集客ルートが一気に断たれることとなった。これにより社内は大きく動揺し、まさに“大騒ぎ”となる事態に発展したと当時を振り返る。
この苦境を打開するため、顧客と接点を持つところから住宅の受注に至るまでのプロセスを改めて整理したという。住宅展示場に変わる新たな顧客接点として、オンライン商談やVR展示、部屋の内観をオンライン上で360度見渡せる「360度ビュー」などのデジタルチャネルを整備していった。さらに顧客が住宅を検討するための材料となるコンテンツの拡充や、それらにつなげる集客ツールとしてのオンライン広告、そして商談管理や顧客への個別メール送付などの機能を持たせた営業支援システム(SFA)の導入も行った。あわせて、リモートでの在宅勤務が必須となる中で、PC環境の整備やコミュニケーションツールの導入も急ピッチで実施されたという。
これらの施策をけん引した中村氏は、当時の状況について「コロナ禍の前から、少子高齢化によって初めて家を建てる『ファーストバイヤー』の絶対数は年々減少しており、現状維持では市場の停滞は避けられないという課題意識がありました。そこで、広告からマーケティング、営業、そしてカスタマーサービスに至るまでの『セールスDX』を構想しており、SFAの導入も2018年から検討段階にありました。この下地があったからこそ、コロナ禍でも迷うことなく一気に打ち手を繰り出せたと感じています」と語る。
実際に2019年には、ITが経営へより深くコミットするという意思のもと、業務システムの運用担当者の集団組織だった「情報システム部」を「業務改革・IT戦略本部」へと名称を変え、組織も再編。現状を変える施策の実施までには至っていなかったところにコロナ禍が発生し、構想を練っていた取り組みが短期間で一気に進展したというわけだ。

旭化成ホームズにおけるDXの要となるのが、2020年のコロナ禍に導入したSFAだ。これによって、営業担当者が紙やExcelで行っていた顧客情報や日々の商談プロセスの管理をクラウド上で一元化し、さらにマーケティング活動を効率化するMA(Marketing Automation)システムとつなげることで、データドリブンなマーケティング施策が可能になったと中村氏は話す。そして2021年には顧客管理システム(CRM)も導入している。
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伊藤真美(イトウ マミ)
フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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