JTCにいる堅物上司の「正解」はもう通用しない? DX先進組織が実践する“上司と部下”の関係構築法
第6回:上司は「正解を出す人」から「正解をともに探す人」へ
DXが成功している組織は上下関係をどう築いている?
では、DX時代における良い上司と部下の関係性とはどのようなものでしょうか。それは、正解がない現代において上司と部下で協力して問題を解決する学習志向的な関係だと筆者は思います。この関係性において、上司には「自分は正解を知らない」ということを前提に置いた謙虚さが求められます。知らないことを無理に判断しようとすれば、かえって信頼を失います。最低限のデジタルリテラシーを学び直し、同じ言語で議論できるよう努める必要があるのです。その上で、自身の役割を「正解を出す人」から「正解をともに探す人」へと変えるべきです。
具体的には、「問題は何か」「仮説は何か」「その仮説は検証できるか」「顧客体験にどう影響するか」といった問いを部下に投げかけ、部下の思考を引き出す。上司に求められるのは結論を押し付けることではなく、プロセスをデザインする力なのです。
一方で、部下には「現場の情報や技術をビジネスにどのように結びつけるか」といったビジネス設計力が欠かせません。いくら現場の声を入手できても、どれだけ技術に詳しくても、どれほどデータ分析が正確にできても、顧客心理を読み解けなかったり、技術を活かせなかったりする人は成果を出すことができません。その力を身につけるためには、上司の過去から蓄積された経験が必要なのです。
つまり部下は、現場での経験やデジタル技術、データ分析力を備えた上で、上司の経験から使える部分を学び取る必要があります。デジタルと経験を掛け合わせることで、上司と部下、組織も大きな成長を遂げられるのです。
DX時代に不可欠なのは「双方向の学び合い」です。上司は部下からデジタルを学び、部下は上司から経験を学ぶ。具体的な例を挙げるとすると次のようになります。
- 部下がAIツールを上司に紹介し、上司は部下に交渉術を伝える
- 部下がSNS発信ノウハウを上司に伝え、上司は危機管理方法を部下に教える
- 部下が業務効率化に役立つアプリを上司に示し、上司は顧客信頼の築き方を部下に伝える
- 部下がリモート会議の工夫を上司に共有し、上司は合意形成の技術を部下に示す
- 部下がデータ分析を担い、上司はその結果を経営判断に活かす

筆者が事務局長を務める住友生命保険のデジタル&データ本部でも、学びの場では上司と部下は対等な関係にあります。上下関係にとらわれず、互いに知識を交換し合い、新しい課題に対応する取り組みを続けています。上司と部下が一緒に「最良の答え」を導き出すことを大切にしているのです。
AIやクラウドなどの新しい技術、サブスクリプションやD2C(Direct to Consumer)といった新しいビジネスモデルを検討する際には、部下職員が最新の知見を提示し、上司が事業性やリスクの観点を加えることで、片方では出せない答えを導くことができます。たとえば異業種共創の取り組みを検討する際に、部下がパートナー企業の動向やサービスを調べ、上司が社内調整や交渉の経験を重ねて提案内容を磨く。このように両者の強みを組み合わせることで、具体的かつ実現性の高いプランをつくり上げることに成功しています。
また、プロジェクトの承認をもらうために経営層へ説明する際にも、部下が整理したデータや事例を、上司が経営の意思決定に響くストーリーに仕立て直す。命令と作業ではなく共創の姿勢で臨むことが重要だと考えています。ともに考え、最良の答えを出す関係性こそ、DX時代に求められる新しい上司と部下の姿だと筆者は考えています。
まとめ
DX時代に成果を出すためには、過去の常識を捨てることから始めましょう。上司は「正解を出す人」であることに固執せず、部下は「従うだけの人」という枠を超える。互いに成長しあえる関係を築けるかどうかが鍵になります。
DXプロジェクトの失敗要因には技術的な難しさだけでなく、組織と人間関係の問題が大きく影響します。時代の変化とともに形成された上司と部下の関係性を改めて見直し、互いに補填できる関係性へと変えられるか。それこそがDXを成功させる要素になるのです。
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- この記事の著者
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岸 和良(キシ カズヨシ)
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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