間接材購買改革、見えてきた次の打ち手
Ariba導入後に改めてステップ1のデータ分析を行った結果、新しい発見もあった。従来は、各カンパニーのP/Lを見て支出を管理していたが、社内振替で取引を処理するため、オムロングループ全体としての分析をやるには手間がかかっていた。Ariba導入後は、会計システム内の取引内容を遡ることなく、カンパニー別、部門別の他、サプライヤー別、品目別に、容易に可視化と分析ができるようになった。
データ分析ができると、次はサプライヤー集約に着手したくなるところだが、佐々木氏はこれにも慎重なスタンスを示した。いきなり絞り込む代わりに、取引実績のある既存サプライヤーを全て登録する方針を選択したのだ。その理由を「カテゴリー間の関連性を無視して、単純にカテゴリー単位でサプライヤーを集約すると、手戻りが発生する可能性がある。また、Aribaの利用を増やしていくには、サプライヤーからの協力が必要になるため、最初から絞り込むのは好ましくないと考えた」とした。
ここまでの改革の歩みを振り返ると、中長期ではコスト最適化を目指しつつも、短期ではガバナンスを重視し、取り組みを続けてきたことになる。実際、図2にもあるように、各カテゴリーマネージャーが重視するKPIはそれぞれ異なるが、いずれもコスト削減とは関係のないガバナンス重視のものが中心だ。背景には、前回の改革の反省に加えて、インフレ進行という経済環境の変化もある。現在の経済環境で、最初からコスト削減ありきで、サプライヤーとの交渉に臨んだとしても、望ましい結果が得られるか。逆に値上げを要求される可能性もあれば、これまでの良好な関係を破壊する結果になる可能性もある。だからこそ、コスト削減ではなく、コスト最適化を目標に掲げ、ステップ3のルールや規律の強化、ステップ4のモニタリング活動を重視して、改革を進めてきた。
さらに、オムロンではより効果的な打ち手を実行できるよう、データ分析環境の整備にも取り組み始めた。カテゴリー単位でコスト削減の数値目標を設定しなくても、ガバナンスの強度をモニタリングしつつ、オムロングループ全体でどれだけのコスト最適化が達成できているかを検証したいと考えたためだ。2024年時点では、一部のメンバーだけがAribaのデータを分析している状況だったが、2025年からは各カテゴリーオーナーが必要な時に必要なデータにアクセスできるようにすることを目指し、共通基盤の整備を進めている。
並行して、価格交渉力向上に向けての施策も進めている。例えば、複数の部門で同じ品目を異なる価格で購入していたとする。この場合、窓口を一本化するだけでも、価格交渉力の向上が期待できる。また、金額の大きい外部への業務委託のような取引に関しては、グループ内のサプライヤー情報の共有を進める。オムロンのような大企業では、ある部門の取引内容を他の部門が知らず、委託先の情報収集から始めるようなことがしばしば起こる。そうならないよう、これまでのサプライヤーへの委託内容や評価などの情報をデータベースに集め、次回の取引の参考にできるようにする。データを使いながら、短期的なコスト削減に終わらない、持続可能なコスト最適化の実現をオムロンは目指す。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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