なぜSalesforceはSlackを全てのAIの起点にするのか ── 「エージェンティックOSとしてのSlack」戦略とは
「Dreamforce 2025」現地レポート
統合AIツールセットに進化したSlackbot
この1年間、Slack単独では、「Slack AI」として顧客から支持される多くの機能の拡充に取り組んできた。その中には、文章作成支援の「AI writing assistance」、リアルタイム翻訳の「AI translations」、スレッド要約の「AI thread Summaries」、議事録作成の「AI huddle notes」などがある。最近では、検索バーから、Slack内のデータや、ファイルストレージやメールなどのサードパーティデータにアクセスできるようにする「Slack Enterprise Search」も提供を開始した。
いずれのAI機能も、他のアプリケーションに遷移することなく、会話の文脈を維持しながら業務を完結させることに焦点を当てて開発されたものだ。ここでの会話の文脈とは、業務の文脈、そしてビジネスの文脈を意味する。検索エンジンに限らないが、途中で別のツールで作業をすると、Slackに戻ってきた時にそれまでの会話の文脈の一部が失われてしまう。AIエージェントの遂行能力には、できるだけ長く会話の文脈を維持できることが望ましい。
今回の製品キーノートで発表になったSlackbotは、これまで提供してきたAI機能をすべて統合した形で提供するため、ゼロから再構築されたものになる。新しいSlackbotの強みは、会話、データ、ワークフロー、アプリケーションに根差した深い文脈の理解力にある。Slackbotは、Slack内の会話データ、Data 360(旧Data Cloud)内のメタデータを基に推論を行い、インサイトを抽出できる。たとえば、営業マネージャーがSlackを起動して、今日のスケジュールの確認から業務を開始したとする。「Engage」をクリックし、Salesforceアプリケーションにアクセスして、契約更新が近づいている担当企業のフォローが必要と気づいた。ここで、Slackbotに何か質問をすれば、その担当企業とのこれまでの取引など、ビジネスの文脈に沿ったインサイトが得られる。また、プレゼン資料からのアクションアイテムの抽出などの日々の業務の交通整理、ミーティング準備の支援、プロジェクトの進捗管理、複雑な会話型タスクの処理もできる。
Slackbotは、会話の文脈の中でユーザーの思考と行動をともにしてくれるAIアシスタントへと進化した。今後に向けては、ノーコードでのアクションの自動的な実行、新しいAIエージェントの構築も可能にする計画が進行中である。新Slackbotの一般提供開始は2026年1月を予定している。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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