三菱UFJトラストシステムは3ヵ月で「開発支援AI」を内製化 未経験の若手エンジニアが奮闘
「内製化率を上げてノウハウを蓄積する」危機感から“AI駆動開発”に舵取り
「3ヵ月でリリース」初めてのAIエージェント開発、2名の若手エンジニアが奮闘
MUSKが進めた開発支援エージェント「AIDE」の開発プロジェクトにおいて特筆すべきは、そのスピード感と開発体制だ。本格的な検討開始からわずか3ヵ月後のリリースを目標に設定、2025年4月から構想を練り、7月に開発着手、10月には社内リリースという“強行”スケジュールが組まれた。
この短期間での開発を実現するために選択されたのは、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」と「GenU」だ。「時間をかければかけるほどBPとの技術格差が広がり、後れをとってしまう。この1年が勝負だと考え、スピードを最優先して“生成AIのテンプレート(GenU)”を活用すべきと判断しました」と分目氏。GenUは、GitHubで公開されているOSSであり、いくつかのユースケースに基づくテンプレートを基にして独自の生成AIアプリケーションを構築できるものだ。GenUを利用することで、インフラ構築の手間を最小限に抑えながら、MUSK独自の機能実装にリソースを集中させる戦略をとった。
AIDE開発の実務を担ったのは、入社4〜5年目の若手エンジニアである小泉貴一氏と平岡玲也氏の2名。ふたりともMVP開発の本格的な経験は乏しく、生成AIを用いたアプリケーション開発もほぼ未経験の状態からのスタートだった。AWSからサポートを受けながら技術的な壁を突破していく中、その開発プロセスではアジャイル開発のアプローチが徹底されており、「アプリケーションを作ったら、すぐにフィードバックをもらって修正する」というサイクルを高速で回し、要件定義が固まりきっていない段階からプロトタイプを構築。小泉氏は「工程を見越して『あらかじめ確定させておくべき要件』と『走りながら確定させる要件』を明確に分けながら進めていきました」と振り返る。
AIDE開発において、特にハードルとなったのはRAG(検索拡張生成)の精度向上と権限管理だ。MUSKが定めている開発標準化ルールや過去のドキュメントをAIに学習させる際、ExcelやPDFといったファイル形式の違いが回答精度に大きく影響することが判明し、最適な形を見出すためにテストが繰り返された。また、社内のセキュリティポリシーに準拠するため、ユーザー(社員)権限に基づいて参照可能なドキュメントを制御する機能をAWS Lambdaで実装するなど、GenUのテンプレートだけでは足りない部分も自力で補完していった。
これまで多くの金融機関のDX/AIプロジェクトを支援してきたTrustの小島立也氏は、「AIプロジェクトに取り組みたい企業は多いものの、『リソースがないため開発を委託したい』と相談されるケースも少なくありません。(PMOとして関わる中で)AIDE開発プロジェクトのように自ら手を動かし、ローンチできたことは大きな成果と言えるでしょう」と述べる。
また、小泉氏は「AIエージェントにはどういった指示(プロンプト)が必要で、どのようなデータ構造なら認識できるのか。試行錯誤しながら、その勘所を養っていきました。一般論ではなく、自分の言葉で生成AIについて語れるようになったことも大きな収穫でした」と話す。まさに当初の狙い通り、3ヵ月という短期間ながらもAIDEをローンチし、若手技術者の育成とナレッジの蓄積も実現した。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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