三菱UFJトラストシステムは3ヵ月で「開発支援AI」を内製化 未経験の若手エンジニアが奮闘
「内製化率を上げてノウハウを蓄積する」危機感から“AI駆動開発”に舵取り
バージョンアップを繰り返し、「AIDE」の全社展開目指す
3ヵ月という短期間で実現したAIDEは、要件定義から保守・運用に至る、システム開発のライフサイクル全体をカバーすることを目指している。今回、第1フェーズとしてリリースされたのは、下記3つのカテゴリに分類される10機能だ。
- 上流工程:要件定義書、基本設計書、詳細設計書のドラフト作成など
- テスト工程:単体テストケースの作成、テストコード生成、レビュー支援など
- 品質管理:案件管理(プロジェクト計画書のレビューなど)
とはいえ、当初からスムーズに機能選定が進んだわけではない。数多ある実装したい機能と開発標準化ルールを照らし合わせながら、どのようなロードマップを描き、開発していくべきか。そのためにTrustと協働して「カバレッジマップ」を作成し、第1フェーズとして上記機能に絞り込んでいる。
また、機能選定において重視されたのは、「AIの精度は上げにくいが必要な機能」と「すぐに効果が出る機能」のバランス。平岡氏は、「MUSKで特に必要とされるのは、上流工程の支援機能です。しかし、生成AIでは高い精度が出づらい領域でもあります。一方、テストケースの生成やレビューは精度が高く、現場ですぐに利用できる。この両方をバランスよく実装することで、『長期的な価値』と『短期的な利用定着』の両立を狙いました」と述べる。
実際、取材時点のデータでは、全機能あわせて約3,400回以上の利用があり、1日平均120回以上利用されていることが確認された。一方、段階的にアカウントを付与している中、既に付与された約700名のうち、継続利用しているのは約15%(100名強)に留まっており、“利用率の向上”という新たな課題も浮き彫りになっている。その傍らで現場からは「大量のファイルを処理できるのか?」「報告書作成に使えないか?」といった、当初の想定を超えた要望も寄せられるなど、AIDEのリリースを契機としてAI活用の機運が高まっている状況だ。
今後、MUSKではAIDEの機能開発を進展させていく。直近では、“Excel方眼紙”のような、AIが読み取りにくいファイルをPDF化する機能、AIDEの利用状況をモニタリングするための機能強化などに取り組みながら、ユーザビリティの向上とコスト管理を徹底していく方針だ。さらに将来的には「AIDE 2.0」としてAI駆動開発を実現するため、既存機能を継承しつつプラットフォームを刷新、各機能を連携させることで開発プロセスを自動化する“マルチエージェント・ワークフロー”の構築を模索中だ。
分目氏は、「今回の開発で培ったノウハウを最終的には、全社の業務効率化につなげていきたい」と意気込む。3ヵ月の挑戦から動き出したMUSKのAI駆動開発は、システム開発の枠を超え、企業全体の働き方を変革するような“大きなうねり”になろうとしている。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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