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日本企業の「ITのコストと成果の不透明性」をいかに断ち切るか─Apptio幹部が語る「FinOps」実行戦略

TBM Conference 2025 レポート#02

 生成AIへの投資が急増する中、企業は「コスト」と「価値」をどう可視化すべきか。IBM Apptioのアジェイ・パテル氏とユージン・フヴォストフ氏へのインタビューから、AI時代の共通言語「ファイナンシャルインテリジェンス」による意思決定の変革と、日本企業が今踏み出すべき方向性を探る。

IT投資とビジネスのアウトカムの「見えづらさ」が経営判断を遅らせる

(左より)Apptio アジェイ・パテル氏(IBMシニアバイスプレジデント兼Apptioゼネラルマネジャー)/Apptio ユージン・カブストフ氏(Apptio最高製品責任者)

 TBM(Technology Business Management)は、IT・クラウド・AIへの投資を財務言語で可視化し、ビジネス価値との紐付けを可能にするフレームワークだ。2007年創業のApptioがTBM Councilとともにこの方法論を標準化し、IBMは2023年に約46億ドルで同社を買収した。

 IBMの狙いは、ApptioのTBMデータを自社製品群と連携させ、ITコストと事業価値(アウトカム)の関係を一気通貫で可視化することにある。一方、TBM自体はベンダーニュートラルな業界標準として進化を続けており、多様なIT環境に適応する姿勢は変わらない。

 しかし日本企業の多くは、SIerへの丸投げでコスト構造の可視性を失い、FinOpsとTBMが分断されたまま個別最適に陥っている。この透明性の欠如をどう断ち切るかについて、IBM Apptioのアジェイ・パテル氏とユージン・カブストフ氏に話を聞いた。

アジェイ・パテル氏インタビュー:ファイナンシャルインテリジェンスとIBMスタック統合

Apptio アジェイ・パテル氏(IBMシニアバイスプレジデント兼Apptioゼネラルマネジャー)

── キーノートでは「ファイナンシャルインテリジェンス(Financial Intelligence)」という言葉を強調されていました。これはどのようなステップで実現すべきでしょうか。

アジェイ:多くの顧客は、まず基本となる透明性の確保から始め、次に最適化の段階へ進みます。しかし技術的効率だけでは壁にぶつかります。ビジネス戦略全体を俯瞰し、投資ポートフォリオを優先順位付けできてこそ成果に結びつきます。

 そこで私は「ファイナンシャルGPS」という比喩を提唱しました。目的地であるビジネス成果に向かうルートを描き、AIが常に最新の状況を地図に反映する仕組みです。このGPSがあれば、経営層も現場も同じ地図を見ながら進むべき方向を判断できます。勘ではなく、データに裏打ちされた意思決定を全関係者で共有すること──これがファイナンシャルインテリジェンス実現の出発点です。

── TBMを実装するための製品を提供してきたApptioが、IBMの製品体系に組み込まれたことで、Apptioのユーザーはどのような新しい価値を得られるようになったのでしょうか。

アジェイ:IBMとの統合により、いくつかの重要な機能が実現しました。まず、IBMのAIプラットフォームであるwatsonxを活用したIntelligent Forecastingは、予測データから異常値を自動で除外し、トレンドを抽出することで予算精度を高めます。また、戦略ポートフォリオ管理のためのSPM Control Centerは、戦略目標・リソース配分・財務データを単一のダッシュボードで結び付け、経営層が全体像を俯瞰できるようにします。

 さらに今回発表の目玉は、Conversational InsightsというAIによる対話型インターフェースです。ユーザーが「技術予算を5%削減するには?」と自然言語で尋ねれば、AIが即座に複数の選択肢とそれぞれの影響度を提示してくれます。これにより、専門知識がなくても意思決定に必要な情報へアクセスできるようになりました。

 インフラ層では、Kubernetes環境のコスト可視化ツールであるKubecost3.0、リソース最適化プラットフォームのTurbonomic、アプリケーション監視のInstanaといった製品群との統合が進んでいます。これによってGPUやコンテナといった最新リソースのリアルタイムコストを把握し、推奨アクションを自動実行するまでの流れが一気通貫で実現できるようになりました。

 ApptioのファイナンシャルインテリジェンスのデータをIBMのAI・自動化の知財基盤に注入したことで、TBMの価値は過去のレポーティングから、未来志向の意思決定支援へと大きく変化しようとしています。

── 日本企業がTBMの方法論を導入しようとしても大きな課題があるのではないでしょうか? たとえば、SIerへの丸投げでITの具体的な支出と、成果の関係は把握しづらい。そうした中でTBMの方法論を実践していくにはどんなアプローチを勧めますか。

アジェイ:まず、パートナーとの商業契約に透明性と説明責任を盛り込むことです。Apptioのようなツールをパートナー側にも使わせるか、自社で導入してパートナーを管理し、成果指標を共有する。次に、アウトソースで得たコスト削減を原資に小さな内製チームを立ち上げ、データを自社の戦略資産として握り続けてください。すべての企業がテクノロジー企業になる時代、戦略を外部任せにすることは大きなリスクになります。

── AI投資やFinOpsチームとTBMチームの連携はどう設計すべきでしょう。

アジェイ:FinOpsはクラウドの最適化に特化し、TBMはIT全体をファイナンスの文脈で捉えるというものです。Cloudabilityで日次のリソース単位コストを把握し、Apptio Costingで月次・年次の全体像を描き、Targetprocessで人とプロジェクトを結び付ける──この3層を組み合わせれば、経営・IT・業務の3部門の共有の理解が生まれます。どこから始めても構いませんが、ゴールは「透明性→最適化→価値創出」という3段階を一気通貫で回すことです。完璧を待たず今すぐ始めてください。測定できなければ改善はできないし、改善できなければ最適化もできません。現状を把握し、目標と道筋を描く──それがファイナンシャルインテリジェンスの第一歩です。

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ユージン・カブストフ氏インタビュー:AIタクソノミーと自律運用

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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